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ぷしろぐ >> 釣り編
【 カ テ ゴ リ 】


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September 5, 2015


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

先々週の大原港、先週の城ケ島と二試合続けて「丸坊主」だった私は(さすがの「メバルマン」は城ケ島では小メバル一匹釣り上げた)、背水の陣の思いで「メバルマン」と共に乙浜漁港へ。


一五〇〇時頃に現地に着いてみると、前回「黄金アジ」を大釣りした突堤が空いている。





ここは「潮通しもよい」のでクロダイも狙えると評判のスポットでもある。早速釣り座を構える準備をしていると、最先端で釣っていたソロの釣り人がもう帰るようだ。

挨拶もそこそこにインタビューを敢行した結果、釣り人氏はアイゴを何と6枚も釣り上げたことが判明した。なるほど、魚たちの食い気は良好というわけだ。こっそりといやな顔をする「メバルマン」とは対照的に、私は何事もポジティブに評価したうえで釣り座を先端の外海向きに構えなおす。


実は大原港でデビューしたばかりのリーガルを水洗いしてバスルームに干していたら、ちょうど翌日にやって来た配管工掃除の男が何らかのアクシデントがあったにも関わらず私に申告しなかったようで、そいつがこっそり帰って行ったあとでふと見ると、そこには先端が1インチほど折れてしまったリーガルがあった!

すぐにでも電話で呼びつけてドジでマヌケな配管工野郎に然るべき罰を与えるべき局面だったんだが、証拠がないので白を切られたらそこまでだ。くそっ、私に代わって神がやつにふさわしい罰を下すまで指をくわえて待つしかないのか!


そんなわけで、予備にシマノのランドメイトを入手した私は、今日は上州屋のとても親切なスタッフがトップガイド代だけで修理してくれたリーガルと新調したランドメイトの二機体制で挑む。

ランドメイトは前から気になっていた二.〇号仕様だ。二号にしておけば大物釣りにも使えるうえに、錘を仕込んだライトなカゴ釣り仕掛けを組んで軽く遠投することだって出来るからな。


ついでに万一ナブラが目の前で展開する事態にそなえて(そんな事態は起こらなかったが)、リーガルと同じく大原港でデビューしたリバティクラブとレブロスのコンビも竿立てに配備済みだ。

試しに21グラムのメタルジグを二、三投したら早速がっつりと根掛かりしたので、リール操作を諦めてラインを握って渾身の力で二、三分も引っ張ていると、海藻の枝を引きちぎってジグは見事に回収された。それって私の電車結びの結束がいかに強力かってことを示す出来事だろう?私は大いに満足した。


突堤の付け根ではベテランらしき夫婦がダンゴ釣りをやっている。私たちが釣りを開始して間もなく現れた、これまたベテランのオーラが漂うソロの釣り人は私たちの左隣でフカセ釣りだ。


隣のベテラン氏の釣りざまをそれとなく観察していると、華麗なるサイドスローで二〇ヤードほど沖まで円錐ウキを飛ばすと、右手に持ったひしゃくで撒き餌をウキから一フィート(≒三〇センチメートル)と離れてないポイントに正確にボチャンと投入する。うへー、どうやったらあんな見事なコマセワークを身に着けられるって言うんだ?

私は、それほどまでに熟練したフカセ釣り師ともなると、釣り上げてしまったアイゴを蹴っ飛ばして海に追い返している様子にすら後光が差して見えることを学習した。


ところで前回、前々回と小魚一匹針にかけられなかった私は、ハリスの改良に着手した。つまり針に「七五センチ」のナイロンラインが結ばれた状態で売られている既製品を使うのをやめて、針とフロロカーボンを買って来て自分で結ぶってわけだ。

ラインにフロロカーボンを採用して材質面で強化を図った分、太さは一.五号に落とす。長さも七フィート(≒二.一米)ほどにして、(テキストいわく)よりエサが水中を自然に漂うようにする。針は銀針をやめて黒針に替えたうえでチヌ針の一号と三号を用意した。


結び方は「内掛け結び」を採用した。一般的には外掛けの方が容易とされているようだが、もう何度もウキ止め糸を結んで来た私には内掛け結びもそれほど難しいようには思えない。

自宅のリビングで何度かチャレンジしているうちに要領を得た私は、いざ大物をかけたときにヘタクソな結び目がすっぽ抜けて獲物に針だけ持ち逃げされる事を大いに心配しながら、一号針と三号針で三本ずつ、計六本を完成させた。


もちろん「すっぽ抜け」の心配は杞憂だった。三号の方をさっそく実戦投入して一六〇〇時に始めて翌〇一〇〇時まで粘ったが、大物なんてかすりもしなかったんだからな。

代わりと言っては何だが、底を狙ってタナを深くするたびに釣れる無駄に巨大でヘビーな海藻を何本陸揚げしても針がすっぽ抜けることはなかったから、まぁ少なくとも「内掛け結び」はきちんとマスターできたようだ。


ところで、肝心の「まともな」獲物はムツ一匹。





塩焼きにして食う分にはなかなか美味だが、仮にもリーガルを駆る釣り人が満足する結果には程遠い。

そしてランドメイトの方は、アミエビ用と思しきプラカゴからLサイズのオキアミがちっとも出て行かないので、早々に竿仕舞いにした。


ちなみに「メバルマン」はチャリコ(マダイの幼魚)だかウミタナゴだかよく分からない一〇センチほどの珍魚を二匹と二〇センチオーバーのクサフグを一匹、私はムツのほかにはゴンズイを二匹釣っただけだった。

周りの釣り人も(アイゴ以外は)何も釣ってなかったようだから、まぁ私たちの腕に特段の問題があったわけではなかったということにしておこう。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。




August 22, 2015


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

例によってアジとクロダイ狙いで「メバルマン」と外房の「大原漁港」へ。


台風が南の海上にあるのは織り込み済みだ。気象予報では晴れ。風も五米/秒未満。かえって外海が荒れてる方が予期せぬ大物も港内に逃げ込んで来てそうで面白いじゃないか。

房総半島を渡りきって九十九里浜が見えて来た頃に、私たちの想像をはるかに超える高波が海岸に押し寄せているのもお構いなしに海水浴客がビーチに溢れている光景を見て「いったいあいつら何考えてんだ?」などと「メバルマン」と語らいつつ、アタック5に寄り道をしてから現地へ。目指すは外側の赤灯だ。


釣り人がいない。





赤灯の足元まで様子を見に行ったが、たまに外海側のテトラを超える大波がやって来るのでそこで釣るプランは即座に却下。身の危険がどうの、と言う前にそんなところで食い物を探して泳ぎ回ってる魚なんているわけがないだろう。

港内も海底から巻き上げられる砂で濁りがきつい。いったん市場前の様子を見に行ったが同じようなものだ。少しでも大物が潜んでそうな赤灯のある堤防側に戻って港内向きに釣り座をかまえることにする。


もっとも私には、獲物が釣れる釣れない以前に今日は新調した竿の具合をテストしたいという思惑がある。


陽光を浴びながら駐機場に待機する戦闘機よろしく水辺に佇むダイワのリーガル(磯竿)とリバティクラブ(ルアーロッド)。





リーガルは前回、下田港の犬走島堤防で折れてしまった磯竿の後任だ。結構な値段だが、ふかせ釣りがメインのスタイルとなりつつある私にはギリギリ許容範囲だ。

バランスがどうとか調子がどうとか細かいことは分からないが、前の磯竿に比べて二〇パーセントほど軽量化されているだけでもその値打ちがあるってもんだ。


リバティクラブはML(ミディアムライト)のルアーロッドが欲しくて入手。

これまでMH(ミディアムヘヴィ)のショアジギロッドでナイロン四号に直結した二〇グラムほどのメタルジグをフルキャストする度にラインが切れて(一五号のジェット天秤はいくら投げてもOKなのに!)泣きそうな気分を味わって来た私は、ついに観念してフロロカーボン(五号)のショックリーダーを採用することにしたわけだが、電車結びくらいしか出来ない私としては、竿も柔らかいものにする必要があるんじゃないかってことだ。間違ってるだろうか。


リールはナイロン三号を二〇〇米巻くためにチョイスしたレブロス3000。





私にとっては竿と変わらない値段を誇る如何にも「高級機」だが、ダイワの位置づけではあくまで入門者用のリールらしい。うへー、本気で釣りをやってる連中は道具一式にいったいいくら注ぎ込んでるって言うんだ?


さて、肝心の釣りの方だが、ウキを投入すると潮の流れであっと言う間に右に一〇米は流され(道糸を止めてなければもっと流されただろう)、しばらくして私の正面に戻って来たと思ったらそのまま左に一〇米は流されてしまうような状況では、もちろん釣りは成立しなかった。たぶん巨大な洗濯機よろしく潮が港内全体を右へ左へと何度も転回していたに違いない。

ふかせ釣りとは別にイシモチが狙えると聞いて持参したチョイ投げ仕掛けの針にアオイソメを刺して港内にぶっ込んでから置き竿にしておいたんだが、こちらも「洗濯機」にもまれて糸は絡みまくるわ、私のパンツの代わりに巨大な海藻が何本も針にかかるわ、全く話にならない状況だった。


「試験飛行」に挑んだレブロスはなかなかスムーズな巻き心地だったが、まぁ獲物のかかってないルアーをどれだけスムーズに巻き取ったところで意味はないしな。二〇グラム弱のメタルバイブを何度かフルキャストしてみたが、私の電車結びでもすっぽ抜けなかったのと、最後までラインが切れることもなかったのは何よりの収穫だった。


そして私たちは今後、太平洋上に台風がある日は絶対に釣りに出かけないことを心に誓ってその場を後にした。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。




August 1, 2015


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

夕方と早朝に満潮になるのを見越して「メバルマン」と下田港へ。


初日の夕方は犬走島堤防で例によってアジとクロダイ狙い、翌朝は福浦堤防に移動してイナダ狙い、と完璧なプランだ。私たちはそれぞれふかせ釣りとカゴ釣りのタックルを携え、オキアミブロックを三キロも買い込んで現地に向かった。


犬走島堤防に到着したのは一五〇〇時。夏休みのシーズンとあって混雑を覚悟で来てみたものの、釣り人はほんの数組しかいない。





前回は小メジナ狙いで曲がり角に釣り座を構えたが、今回はもっと島寄りを押さえることにする。理由はシンプルに、前回来たときベテラン風の釣り人はみんなその辺で釣っていたからだ。

つまり私たちはもう小メジナを数釣りしたくらいで満足するような謙虚な釣り人ではなくなっちまったってわけだ。


駐車場に車を入れてから遅めの昼食を車内でとって猛暑をやり過ごし、一六〇〇時少し前に私たちは釣り場への移動を開始した。それでも気温は摂氏三五度を下回ってはいなかっただろう。

燦燦と太陽が照りつける炎天下に、いい加減な舗装しかされてない悪路を、クソ重たい荷物が満載されたたカートを引いてよちよち進んで行くという作業はなかなか釣り人泣かせだ。私たちの苦難を予想していたかのように、堤防入口の売店の店主が「暑さでバテるんじゃないよ」と優しく声をかけて見送ってくれた。


曲がり角と島の中間あたりでいいか、と思ったが、私たちとほぼ同時に堤防入りしたカップルがいち早くそこを押さえてしまったので、私たちはさらに島寄りに釣り座を構えることにした。

海面を覗きこみながら釣り座へと向かったが、堤防の右側と左側を問わず、なかなかのサイズのメジナやアジと思しき魚たちの群れが悠然と泳いでいる。明らかに前回よりも条件はいいはずだ。


今回、私のふかせ釣り仕掛けのメインのウキはハピソンの「特大(6B相当)」電気ウキだ。なぜ昼間から電気ウキかと言えば、夜になっていちいちウキを交換するのが面倒だからだ。もちろん昼間はバッテリーを逆さまに刺して消灯モードで使用する。

そして今回初めて「水中ウキ」を使用する。もちろん犬走島堤防で釣りをするだけなら、海が荒れてでもないかぎり「水中ウキ」は必要ない。だが、翌朝に向かう福浦堤防くらいの水深になると使った方がよさそうだ。なぜ犬走島堤防での釣りにも「水中ウキ」を使用するかと言えば、夜明け前にわざわざ仕掛けを作り直すのが面倒だからだ。

水中ウキはずいぶんと前に入手していながらツールボックスの底の方で眠っていた初心者用のウキ釣りセットからそれだけ拝借して来た。5Bの水中ウキなので電気ウキも合わせたかったのだが、ハピソンのラインナップには5B相当がないので仕方なく「6B」だ。


新しく買ったオキアミとアミエビのブロックをバケツで海水に漬けて解凍する一方で、乙浜漁港で使い切れずに自宅に保管、解凍しておいた撒き餌を撒いて早速試合開始だ。

タナは三.五米くらいにして水中ウキ付きの仕掛けを海中に投じると、遊動範囲が短いこともあって、あっと言う間にウキが立った。5Bの水中ウキを使うということは、まぁ5Bのガン玉をウキに最も近い位置に打つようなものだからな。それにしてもなかなかウキ止めがウキまで到達しないでもやもやする時間が短縮されるのはありがたい。


それに水中ウキは当然沈むためにあるものだが、「ウキが沈む」という現象自体が釣り人にとっては心地のいい瞬間でもあるので(たぶん多くのウキ釣り師が共感してくれるはずだ!)、私は獲物がかかったわけでもないのに海面下におぼろげに見える水中ウキが沈んで行く光景に暫し見とれていた。そんなバカなことをしていたので、メインのハピソンがずっぽり海面下に沈んでいることに気付くのが遅れてしまった!


罵り声をあげながら大慌てで腰かけていた「トランク大将」から立ち上がって勝負を開始する。とは言っても明らかに主導権はあちらにあって、ぐんぐん深いところに潜り込まれて行くのが分かる。

大洗の釣侍で「一番安い」という理由でチョイスして以来、数々の獲物を仕留めて来た愛用の磯竿のしなり具合からして、今までに私が針にかけた獲物たちのなかでも最強の部類に位置する大物のようだ。ロケーションはともかく、この堤防はこれがあるからやめられない。


ほどなくしてハリスがプツンと切れると同時にウキやその他のパーツが道糸と一緒に宙高く舞い上がって、それから足元に落ちて来た。「根に潜られた」ってやつだろう。全く痛恨のドジを踏んじまったぜ!


切られたハリスは一.五号だった。乙浜での思い出もあり、私は自分のちょんぼを棚にあげて一.五号のハリスは「使えない」と判断して二号のハリスに替えることにした。

待てよ?道糸も二号じゃないか。理論上、道糸とハリスの強度を揃えてしまうと今みたいに大物をかけたときに道糸が切れてウキごと持って行かれてしまうリスクが生じることになる。そいつはまったく許容しがたいリスクだ。


私は「何かの予備用に」とロッドケースに忍ばせておいた、三号の道糸が撒かれたリールを取り出して来て、大洗の釣侍で「一番安い」という理由でチョイスして以来、数々の獲物を仕留めて来た愛用の磯竿にセットした。

道糸三号にハリスが二号、ふかせ釣りの教科書で謳われているスタンダードからすると、かなり屈強な仕掛けと言える。さぁ、ちぎれるもんならちぎってみやがれ。


「メバルマン」がちっとも釣れないことをぼやいているうちに、またしても私のハピソンが海面下に消し込んだ。私がそいつを凝視している最中にそんなことをしでかしてしまった獲物が私から逃げおおせる見込みはゼロに近い。私はクールに竿を立ててそいつを巻き上げにかかった。

やり取りを通して獲物が下へ下へと潜り込もうとしているのがよく分かる。なかなかの引き味だが竿のしなり具合も含めてさっきのやつほどパワーがない。こいつはたぶん、もう私が今までに何枚も釣り上げて来た「小メジナ」だろう。

実際、釣り上げてみるとそいつはやはり「小メジナ」だった。早速、針を外して放流しようとすると、様子を見ていた「メバルマン」が信じられない!といった反応をするので、私は思いとどまって念のためにそいつのサイズを計ってみることにした。





あれ!?私がこれまでに釣り上げたことのあるどのメジナよりもデカいじゃないか!


だとしたら、適切にキッチンで処理すれば私の明日の夕食としてこのうえないご馳走になるはずだ。私はそいつを「トランク大将」に放り込んでドブ漬けにし、それからこのサイズのメジナの引き味ではもはや興奮することが出来なくなってしまった現実を少しだけ寂しく思った。


そんな感傷にひたってられる時間はそう長くなかった。次の獲物を釣り上げるために針にエサを付けて仕掛を海中に投じ、ハピソンを厳重監視下に置いた私は目を疑った。

ハピソンのすぐ隣に私の磯竿の先端部が一〇インチほど本体から遊離してプカプカ浮いている。くそっ!竿が折れちまってるじゃないか!!


逃げて行った大物との渾身のやり取りでカーボンが疲労していたところに、そこそこのサイズの小メジナを釣り上げて限界を超えちまったってとこだろうか?どこの釣り場に出かけるにも私と一緒で一年近く苦楽を共にして来た愛用竿だったが、これも運命というやつだろう。

ところで私は初めて知ったんだが、竿の先っちょが折れても、折れた先っちょがウキ周りをうろちょろするのが目障りなだけで(道糸がガイドを通ったままなのでどこかに流れて行ったりはしない)釣り自体の続行は可能だ。とりあえず次に仕掛けの交換が必要になるまでは、これでやってみることにしよう。


やがて陽が沈んで暗くなって来たので私たちは電気ウキを点灯させた。私たちと同じころに釣り座に入ったカップルはとっくに帰ってしまい、他に釣り人は例の曲がり角とそれより岸側に二、三組といった程度だ。

この潮回りで金曜日の夜ともなれば、もっと釣り人だらけになるさまを想像してたんだが、何とも寂しい夜釣りになっちまったじゃないか。


やはりハピソンの周りで所在なさげに海面を漂う折れた「先っちょ」が少々目障りなので手間を惜しまずに仕掛けを作り直そうかと迷い始めた頃に、例によってハピソンがすーっと海面下に消し込んだので、私はトランク大将から「やれやれ」といった気分で腰を上げた。今度の「小メジナ」はどれくらいのやつなんだ?

ところが竿を立てた瞬間、獲物が信じられないパワーで海底目がけて疾走を開始したので私は思わず呻き声をあげた。くそっ!デカチン野郎がかかったぜ!!


どうやらとんでもない大物らしきそいつも下へ下へと逃げようとしているのが分かる。だがこれまで経験したことのないパワーに、そいつがメジナなのかどうか全く確信が持てない。いずれにせよ私がまず避けなければならないのは「デカチン野郎」に根に潜られることだ。つまり竿を立ててひたすら耐えるしかない。オーケー。その方が却ってシンプルでいい。


私は暫く竿と「デカチン野郎」の力比べを楽しんだ。そうしているうちに「デカチン野郎」のパワーで振出式の竿の何段目か知らないが一段だけすとんと落ちて一瞬ラインがたるんでしまった。

大洗の釣侍で「一番安い」という理由でチョイスして以来、数々の獲物を仕留めて来た愛用の磯竿を何だか少しだけ信頼できなくなった私は、それを機にリールを巻きにかかった。


その頃にはもう相手は持てる力を使い果たしてしまっていたようだ。海面までそいつを上げて来るのにさほど苦労はしなかった。私は、私がリールを巻き上げ始めると同時に、明らかに相手がこの勝負を「投げた」のを感じた。

前回とは打って変って)慣れた手つきで、いつでも使えるように近くに待機させておいた玉網を手にした私は、そいつを海面に延ばすと一発で獲物を掬い上げた。

灯りに照らし出されたのは紛れもなく「大メジナ」だ。いや、メジナを専門に狙って険しい磯に通い詰めるようなベテランに言わせれば、それほど大した獲物ではないのかもしれないが、私のように未だに堤防で五目釣りに明け暮れてるような末端の釣り人にとっては十分に「大物」だ。


サイズは三三センチメートル(翌朝撮影)。





上のはそれまでに私が釣り上げた中で「最大」のメジナだ。ははは、何が「最大」だって?


早速、持ち帰って刺身にして食っちまったわけだが、腹からは私の撒いた撒き餌らしきものがどっさり出て来た。たぶんもう何年も釣り人の撒くエサをたらふく食って生きて来たんだろう。

そしてひょっとすると、やつは日々の食事を釣り人のエサに依存するというリスキーな選択の代償として、ひたすら釣り人との勝負に勝ち抜くことで生き延びることを許されて来た歴戦のファイターだったかもしれない。そして今度も力ずくで勝てると思っただろう。気のせいかもしれないが、針にかけた直後にやつが私に見せつけたパワーに、私はやつのそんな自信に裏付けられた「勝算」をすら感じ取った。悪いな、まさか三号の道糸で挑んで来るようなインチキ「ふかせ釣り師」が夜釣りをやってるとは思わなかったかい?


まぁそんなわけで偉大なるファイターに一種の敬意を抱きながら、缶ビールを片手にやつの刺身を頂いたわけだが、背側の身はそれはもう絶品だった。腹側は・・・ 何だか少し変な風味がした。

明るくなってから写真を撮るために(と言うより主に少々面倒に思えたので)、その場で締めなかったのがよくなかったかもしれない。


尺を超えるメジナを釣り上げたのが初めてなら、電気ウキが点灯中に獲物を釣り上げた(つまり夜釣りで釣り上げた)のも初めてだった私は(おまけに折れた竿で)、一気に課題をいくつも片づけたような気がして気を抜いたわけでもなかったのだが、あとは「メバルマン」と一緒にサバっ子を何尾か釣っただけでその夜の釣りを終えた。


そして福浦堤防の駐車場へと移動した私たちを待ち受けていた驚愕の事実。





もともと七月に工事をやること自体は知ってたんだが、スケジュールを勝手に変更されるとは・・・。





仕方がないので翌朝も犬走島堤防の先端でやってみたが、「イナダ」狙いのカゴ釣りは不発。


猛暑に耐えかね釣りをさぼって「メバルマン」には内緒で堤防入口の売店でカキ氷を堪能しているときに親切な店主に聞いたところでは、ここ数年、福浦堤防とちがって犬走島の方はワカシクラスは寄るものの、イナダの寄りはよくないらしい。まぁこっちは前回のカワハギといい、居着きの魚は楽しめるからな。


朝の部では、「メバルマン」が「ウキふかせ」でサバっ子をたくさんと一五センチほどのメジナを一枚釣り上げたが、私は「クソベラ」一枚のみ・・・。





図鑑には「オハグロベラ」という名前で掲載されていながら、とてもシュールな呼び名がついているこの魚はもちろん本来は投棄対象だが、針をしっかり飲み込みやがったので針外しを喉に突っ込んでえぐり出すと、胃袋か何かが針と一緒にベロンとずり出されて来ちまった。これでは海に返すと本当にゴミの投棄になってしまうので仕方なく「トランク大将」へ。


小メジナと一緒にガーリックなどまぶして軽く焼き揚げにして試食してみたが、まぁ食感というか、歯ごたえがメジナには少々劣るものの、その淡白で上品な白身は食えないことはなかった。


そして一〇〇〇時近くになってもう帰る頃に、「クソベラしか釣れないなんて全くクソだぜ!」と「メバルマン」に大声で話しかけた私の目の前で、父親らしき人物とやって来て近くで釣りに興じていたのはいいが、たぶん何も釣れてなかった一五歳くらいの少年が「クソベラ」を釣り上げたので、私は少々決まりの悪い思いをした。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。




July 19, 2015


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

性懲りもなくアジとクロダイ狙いで南房の乙浜漁港へ。それにしたって、もうかれこれ一年近くもアジを追っかけてるのにちっとも釣れやしないじゃないか。


満潮が一八四〇時と翌〇五四〇時という格好の潮回りなので、今回は夕方から明け方まで釣るスタイルにする。そうは言っても気象予報によれば日付が変わる頃にはゲリラ豪雨のおそれすらあるうえに風は終始風速一〇米/秒前後で吹き荒れるとある。

率直に言って、潮回り以外の条件は「サイテー」だ。


メンバーはいつもの「メバルマン」に加えて一年前の船釣りでは一度も竿を握ることなくひたすら海に向かってゲロを吐いていた人物も参加する。何でも最近、自宅マンションの管理組合の理事長に就任されたようなので、ここでは「理事長」とでも呼ぶことにしよう(個人的には「ゲロのひと」でも構わないのだが)。


「アタック5」に寄り道をして一七〇〇時に現地着。もともとは前回と同じく南側の護岸から港内向きに釣り座を構える予定だったが、気象予報が芳しくないからか、人気のポイントとされるトイレ側の突堤には釣り人が先端部に二人しかいない。たしか護岸よりこっちの方が水深が深いはずだ。私は二人に指示して突堤の東向きの中ほどを占領させた。デキる釣り人は現場を見て何事も臨機応変に対応しなければ。


私はいつも通り、多彩な魚種に柔軟に対応できるように五.三米の磯竿で「ふかせ釣り」、残る二人はアジ狙いの「カゴ釣り」で挑む。だいたい私が二人に誘われて一番最後に釣りを始めたって言うのに、彼らはお世辞にも勉強熱心とは言えないので、今回にいたっては私が彼らの使う仕掛けをわざわざ自宅で作って持って来てやる始末だ。


そんなわけで彼らは釣り座に着いてすぐに釣りを開始することが出来たわけだが、私が自分の釣りの準備をしていると、間もなく「メバルマン」の竿が程よく曲がって彼は猛然とリールを巻き始めた。ほほぉ、やつの仕掛けにかかったのはいったい何だ!?


何と、彼が釣り上げたのは「尺アジ」かと思われるほど(あとで計ってみたら二七センチだった)巨大な「黄金アジ」だった。げー!私に仕掛けを用意させておきながら私の準備も終わらないうちにそんな大物を釣りやがって、この野郎!


平静を装いながらも私の仕掛を準備するピッチが上がる。ひとつだけ言えることは、今回やつの仕掛けを作ったのは私で、結局この場を仕切っているのは私だ、ということだ。タナは三.〇米、付け餌はLサイズのオキアミ。すべてが私の計算通りに進んでいる。

ウキ下をぴったり三.〇米に合わせ、ガイドブックのお手本に寸分違わないほど丁寧にオキアミを針に刺すと、久慈漁港で余ったので自宅の冷凍庫に保管しておいた「チヌ何とか」とパッケージに掛かれた集魚剤入りの撒き餌をばら撒きながら、私は華麗に仕掛けを海中に投じる。間もなく私のウキも海面下に消し込んだ。





ひゃー、神様は何て公平なんだ!


このランクのアジだと時合いはそう長くないだろう。手返しが要求される場面だが、二尾めが針をしっかり飲み込んでくれたおかげでハリスを交換しなければならなくなった。くっ!こんなときに限って舐めたまねを。

結局、必ずしも私が十分釣りに集中することが出来ないうちに、たぶんたったの一五分ほどで祭りは終わった。


終わってみれば一尾バラしてしまったこともあって私が釣り上げたのは三尾。「メバルマン」も三尾、全てが二五センチ前後の粒揃いだ。「理事長」も、わざわざエラをひっかけに針の方へと泳いできてくれた親切なやつを一尾釣り上げて面目を保った。まぁ、あんまり釣り過ぎて自宅のキッチンでの作業が気の遠くなるようなボリュームになっちまうのも考え物だしな。私たちはひとまずその結果に満足して互いの健闘を称え合った。


何も釣れない時間がやって来て、一九〇〇時を過ぎた頃には早くも二人が空腹を訴え、「飯を食いに行くがどうだ?」と言い出したのだが、私は丁重に断った。

もともと夕方の釣り場は夕食どきに一度撤収して私も食事に出かける予定だったが、せっかくこの豊漁ポイントを押さえた以上、できれば朝までここを放棄したくない。おかげで私の夕食はザックにしのばせておいた「ポテトチップス」だ。


二人が夕食へと出かけて、もともといた釣り人も一人帰ってしまったので、突堤上には私と、雨合羽に素顔を隠して尋常ならざるオーラを漂わせている大ベテランらしき不気味な釣り人の二人っきりになってしまった。

ベテラン師のウキは突堤から二〇米ほど東の海面に静かに浮いていて、それは私たちがここにやって来たときから全く変化がなかった。私たちが上物のアジを釣り上げて歓喜しているときにも、件のベテラン師は身じろぎひとつせず静かにパイプ椅子に腰をかけてじっと自分のウキを見つめていた。


事態を正しく理解してない私が、私たちがそこに参上して以来、小魚一匹釣り上げてないそのベテラン師に向かって、心の中で「そんなに沖でアジは釣れないんだぜ、爺さん」とこっそり呟いたことは認めよう。素直にもっと手前を狙えばいいのに、とか何とか思ったことも事実だ。だがベテラン師には私たちが釣って大喜びしていた「良型の黄金アジ」など、はなから眼中になかった。

彼が仕掛けのチェックのために手元にそれを引き寄せているのを見て分かったことだが、彼は私たちが釣ったのとそう変わらない立派な大アジを「活きエサにして」、じっと大物のアオリイカを狙っていたのだから!


私は釣り人たちの間にも、あの悪名高いカースト制度よりも強固な、越えるに越えられない「身分の違い」があることを学習した。


すっかり日が暮れて、私の立っている場所が近くの旅館のネオン灯の灯りがなければ本当に真っ暗闇になってしまいそうになった頃、ぼんやり考え事をしながら浮かべていた私の電気ウキが勢いよく海面下に消し込んだ。さぁ、仕事の時間だ。

アジの群れが去ってからかなり時間が経ってるから今さらやつらじゃないだろう。そもそも引きのトルクがアジとはまるで違う。まさに「磯魚」のそれだ。くっくっく、こいつはもしやひょっとして・・・?


夜が明けてから私が両手に抱えた大物の「クロダイ」を自慢げにカメラに向けて記念撮影に興じているさまを思い浮かべながら、腰を下ろしていた「トランク大将」からゆっくりと立ち上がって勝負を開始しようとしたそのとき、あっけなくハリスがプツンと切れてそいつは漆黒の海中へと逃げて行った。何だよ!まだ何にもしちゃいないじゃないか!


一.五号のハリスをいとも簡単に切られた私は二.〇号のハリスに差し替えてしばらく粘ってみたが遅かった。食事に出かけていた二人が戻って来て、そのまま車の中で寝る、と言う。とにかく風がびゅーびゅー吹き付けるので「釣りなんてやってられないぜ!」ってことらしい。私も、私のハリスを引きちぎったまだ見ぬ「大物」を一旦諦めて、釣り座に置いた道具はそのままに、気分転換にルアーを通しに港じゅうを徘徊することにした。


トイレ前の護岸では一〇組ほどの釣り人がサビキ釣りみたいなことをやっていた。ちょっと歩けばここよりも明らかに獲物に恵まれてそうな突堤があるというのに、誰もそっちに行かないのは、護岸には常夜灯が何本も立っていて見るからに安全だからだろう。

あるいは常夜灯周りには魚が集まるという、よく耳にする「教え」を信じてそうしてるのだろうか。だがどんな魚種であるにせよ、私のターゲットであるべき経験値が豊富で警戒心も強いと思われる「大物」は、安易に煌々と灯りの照らす岸際までふらふらやって来たりしないだろう。


忌々しい風にもめげずに釣り人のあまりいないスペースを見つけては、上州屋でみつけた1個四八〇円の「シンキングミノー」をひたすら投じて引いてみる。強風はふかせ釣りにも厄介だが、ルアー釣りに与える影響はまことに計り知れない。

風は南西方向から吹き付けて来る。護岸から南向け−正面−にルアーを投げたはずなのに、引いて来ると一〇時の方向(東南東)からルアーが戻って来ることすらあった。もちろん私のキャストがヘタクソ過ぎてそうなったわけではない。どれだけひどい風だったか分かるだろう?


日付が変わる頃まで護岸上を練り歩いてあらゆる方向にルアーを通しつつ何本かの活きのいい海藻を釣り上げたところで私は突堤の釣り座に戻ってひと眠りすることにした。風がびゅーびゅー吹き付ける幅五米、海面までの高さが三米ほどの堤防の上で好き好んで仮眠をとる釣り人は、ひょっとすると世の中にあまりいないかもしれない。

それがどうしたって言うんだ?冬山でときに味わう寒さと恐怖を思えばちっとも騒ぎたてるほどのことでもない。


結局、大ベテラン師は何も釣れないまま引き上げたようで、突堤には私ひとりだけになってしまった。もちろん私はベテラン師が放棄した先端部を自分の釣り道具で占領し、テント用のマットをしいて急ごしらえのベッドを作り、トランク大将とツールボックスを並べて風よけにした。横になった私に容赦なく吹き付ける風を完全に防ぎきることは出来なかったが、それでもそれらの風よけのおかげで私の寝床はいくらか快適になった。


びゅーびゅーと吹き付けていた風がいつしかごうごうと吹き付けるなか、南の堤防側から聞こえてくる荒れ狂う波の音にもいつしか慣れてしまった私がうつらうつらしていた頃に、突然、誰かが私の顔を強烈なライトで照らしたので私は驚いて目を覚ました。

どうやら突堤上に今夜初めてのゲストが現れたようだ。太った坊主頭と、これと言って特徴のない若者の二人組で、坊主の方の無駄に高性能なヘッドライトが何度も私の顔を照らすので私は少々イラついた。


別に坊主頭は悪気があってそうしてるわけではなさそうだ。つまり隣に立ってる相棒と会話をするために相棒の方を見る度に、相棒の延長線上にいる私の顔が眩しいライトで照らし出されるってわけだ。気配りの足りないやつらだとは思うが、彼らに言わせればこんなところで寝ている私の方が頭がイカれてるってことになるだろう。文句を言うわけにもいかない。


私は再び眠りにつこうとしたが、ほんの数分もしないうちに相棒の方が「よぉ、かかったぜ!」と坊主頭に大声で知らせるのを聞いてマットの上で思わず飛び起きた。

相棒は東側に向けてルアーをキャストしたようだ。そこは寝床に着くまでに私が散々ルアーを通したところでもある。水深が浅いのか何なのか、それほど沈めずにルアーを引いたのに何度も海藻が引っかかっって来たゾーンでもあり、そして例のベテラン師がそいつを見越したかのように、海藻の際を棲家とするアオリイカを狙って何時間も粘ったゾーンでもあった。

「落ち着いてやれよ!」と坊主頭が興奮しながら自分にかけるべき言葉を相棒に投げかける。私はマットの上に座り込んでじっと相棒のロッドの先端を見守る。私の目利きではどう見ても魚がかかってるようには見えないんだが、相棒は頭からそう信じている風だ。


やがて回収された仕掛けの先には思ったとおり、立派な海藻がぶら下がっていたので、私はつい心の中で「ふざけてるのか?」と呟いたのだが、眠りを妨げられて少々いらついていた私は、ひょっとするとはっきり声に出してしまったかもしれない。

分かっているとも、そこは本来、人が睡眠をとるべき場所ではない。私の怒りは半分八つ当たりのようなものだった。


私がそのまま寝床に戻ると、それから数投ほど試した二人は「風が強くて釣りにならないぜ!」と捨て台詞を吐いてどこかに行ってしまった。オーケー、そいつは私も全く同じ意見だ。でもいちいち口に出して言うことか?


〇四三〇時の夜明けに備えて〇三三〇時まで仮眠をとってから朝釣りの準備を始める計画だったが、あまりに風が強くて、さすがの私も〇三〇〇時前には震えが来るほど身体が冷えて来たので予定より早く起床する。

まぁ風はともかく予報では降ることになっていた大雨が降らなかったことだけは幸運だったというほかはない。


袋にまだたっぷり残っている「チヌ何とか」を撒き餌に追加して海水ごと撹拌し、朝の「ふかせ釣り」に使う分を補充するとともに、竿立てに立てておいた竿を見てみると風のせいで道糸が蔦系の植物のつるのように何重にも巻きついてしまっていたので、そいつを丁寧にほどく作業に明け暮れる。ようやく準備が整った頃に東の空が白んで来た。ちょうどいいタイミングだ。


私が突堤先端の東側に仕掛けを垂らして釣りを開始したころに「メバルマン」と「理事長」も起きて来た。相変わらず風が強いので「理事長」はすごすごと車に戻って行ったが、「メバルマン」は自分の竿を手にとってカゴに撒き餌を詰め始めた。

朝のゴールデンタイムに合わせて釣り人も続々と港にやって来る。ほとんどの釣り人が「安全な」便所の前の護岸に釣り座を構えたが、一組だけ突堤までやって来て昨日私たちが陣取ったポイントで釣りの準備を始めた。


〇四三〇時の夜明け直後からしばらくは何も起きなかったが、〇五四〇時の満潮からしばらくして、たぶん下げ潮に転じた頃に、まずマイワシがかかった。釣り上げられて堤防上に横たわったマイワシはセメント上を泳ぐかのようにプルプルと身体を震わせるのだが、そのたびに彼のうろこが一〇枚、二〇枚と剥がれて周囲に飛び散って行く。私は一切手を触れてないのに見る見る彼の姿は変わり果てて行き、最後は目玉まで飛び出して全身ボロボロの姿でマイワシ氏は壮絶な最期を遂げた。


五分もしないうちにまたしても私の針に何者かがかかった。朝日をバックに浮かび上がる釣り上げられたそいつのシルエットを見て私は隣の「メバルマン」に「イワシ釣りの時間だぜ!」と声をかけたが、陸揚げしてみると魚体が妙に赤っぽい。何だこいつは?

「ムツじゃないか?」と「メバルマン」が言った。おっしゃるとおりだ。彼は釣りのスキルはともかく明らかに私よりも博学だ。


体長一八センチほどの「むつっ子」。





最後に私のウキを一気に水面下に沈めたのは一四センチほどの小メバルだった。





今回の釣果。





終わってみれば夕方の一時間だけ釣ってさっさと帰ってればよかった気もするが、まぁ何事も経験を積むことに意味があるのだ、ということにしておこう。


〇六三〇時に帰り支度を始め、小用を足しに便所に向かいがてら護岸に並ぶ釣り人たちの様子を窺ってみると、みんなサビキ釣りで小イワシを鈴なりに釣り上げているようだった。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。







July 11, 2015


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

この時期はクロダイとアジが同時に狙えると噂の日立の久慈漁港へ。


潮見表では日の出が〇四時三〇分、〇六〇〇時が干潮で一三〇〇時が満潮という潮回り。あまり芳しいとは言えない条件だが、まぁ日の出のゴールデンタイム狙いで〇四〇〇時にゲーム開始、潮止まりに入る昼前には切り上げるのが妥当だろう。

メバルマン共々、日付が変わる頃に東京を出発して、〇二〇〇時過ぎに現地に到着。海水浴場の駐車場で仮眠をとって〇三三〇時に起きてから駐車場付の便所で小便を済ませ、それから車を堤防先端近くまで移動させて路肩に止めようとしたが、既に釣り船客の車が数十台殺到していてかなり手前に駐車する羽目に。


堤防の高さは七、八フィートといったところで、一旦舗装された道を先端方面へと歩いてから途中に設置してあるハシゴを使って堤防へとよじ登る。と言うことは、カートに積みこんだ荷物をいったんバラしてから堤防上まで荷揚げして、もう一度荷造りをし直さなければならないってことだ。とりあえず今後ともここに一人で来ることだけはやめておこう。


目指すは赤灯。一級ポイントと思しき先端に先客が一人いるが思ったほど混んではいない。まずは一段下がった少し手前の外海側に釣り座を構えて仕掛の準備に取り掛かる。

クロダイにもアジにも柔軟に対応するために、当然、二人とも仕掛けは「ウキふかせ」だ。そして私はいつものように特製スペシャルブレンドこませの製造に着手する。

冷凍オキアミブロックと、アジを寄せるために鼻の曲がりそうな異臭を放つ「アミエビ」、さらに海底に潜むクロダイ諸君のもとに確実にそいつをお届けするために比重の高い「チヌ何とか」とパッケージに書かれた集魚剤もバケツに放り込み、海水を適量加えてかき回す。


早速、出来上がりを海面に撒いてみる。たちまち見たところ一〇センチメートル弱の小魚の群れが寄って来た。何だ?ネンブツダイか?まぁ何でもいい、魚たちの活性が高いというのは良い傾向だ。だがそいつをひと目見た「メバルマン」が一言、「フグじゃないか?」と言った。何だと!?


うーむ、たしかに私が撒いた撒き餌に群れて貪り食ってやがるのは釣り上げられたが最後、多くの釣り人からゴミよりもひどい扱いを受けるフグのキッズどもだ。

ゴミが針にかかっただけなら取り除いて捨てればいい。こいつらはいつもエサを食い逃げするばかりか立派な前歯で針に危害をくわえて仕掛をダメにする。それにこいつらは魚たちからも嫌われているので泳がせ釣りのエサにすらならないし、もちろん人間さまの食用にも回せない。私は彼らを私に出来る限り丁重に海に投げ捨てるが、ゴミすら持ち帰るくせにこいつらだけは堤防上に放置してミイラにしてしまう釣り人が何と多いことか!


私より仕掛けを手早くセットした「メバルマン」がゲーム開始とともに早速チビフグを三匹たて続けに釣り上げたので私は声をあげて笑った。そして私はその「惨状」を参考に、くそったれどもの層をすぐに突破できるように、私の深場狙いの「スタートセット」である5Bのウキと2Bのガン玉という基本仕掛けに、今日はさらにもうひとつ2Bのガン玉を追加することにした。

第一投から早速すっぽりウキが水面下に消し込んでいく。しかもチビフグにはありえない手ごたえだ。ふっふっふ、私の頭脳をもってしてやつらをかわす事くらいわけないことさ。


かかっていたのは二〇センチ近くはあろうかという、やつらの「親分」。





それから先はやつらの「食い逃げタイム」だった。どんなに丁寧に付け餌を針にさしてもやつらは上手にそれを咥えて持ち去る。どうにか錘やウキ下を調整して縦のラインで勝負しようとしても、仕掛けが着水するや否や、付け餌が沈み始める前にやつらが襲撃してくるのでまるで意味がない。


縦が無理なら「横の勝負」に持ち込むしかない。左手に撒き餌を撒いてやつらをそちらに釘づけにしておいて、右手に仕掛けを投入する。アタリを感じて巻き上げてみると針にかかっていたのはなぜかシロギス。





ふかせ釣りで釣れてもちっとも嬉しくない。


おまけに名付けて「横の作戦」は、すぐにやつらに見破られたようだ。撒き餌をどこに撒こうが、ウキがチャポンと着水した瞬間にやつらはそっちに殺到するようになった。こうなってしまうと撒き餌なしで仕掛けを投入したってやつらをかわせない。すっかりお手上げだ。

まぁグレ針を使っているらしい「メバルマン」とちがって私のチヌ針にチビフグが「かかる」ことはないので、やつらをいちいち針から外して海にぶん投げる手間が省ける事だけがせめてもの救いだった。


試合開始から一時間ほどで先端部を占領していた先客がお引き取りになったのでそちらに移動してみたが、何ら事態は変わらなかった。〇七〇〇時を過ぎた頃にチビフグどもに混じって小アジも寄って来るようになったが(上げ潮に転じたからだろうか)、まぁそうは言ってもチビフグ五〇尾に小アジが二、三尾くらいの割合なのでどうにもならなかった。

私は局面を打開するために自分のこさえた撒き餌で「ダンゴ釣り」が出来ないか、とトライまでしてみた。私と同じように何でも行き当たりばったりでチャレンジしてみる釣り人は既に知ってることだろうが、ただの集魚剤でダンゴを作る事は不可能だった。


結局、適当なところで見切りをつけた私は、ランチタイムまで爽やかな青空と心地よい潮風のもと、青物シーズンに備えて一〇フィートのジギングロッドにナイロン四号ライン、一五号のジェット天秤を使った弓角仕掛けをひたすら投げる練習に明け暮れた。向かい風のなか、飛距離は目測で六〇から七〇米ってところだろうか。何よりも実地検証によってその組み合わせなら力糸はいらないことが実証できたことが心強かった。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。







June 1, 2015


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

魚影の濃さは折り紙つきと噂の南伊豆へ。今回は日曜日の夕方と月曜日の朝方のダブルヘッダーだ。


本命のポイントは下田港の犬走島堤防だが、休日は混んでるにちがいない。そんなわけでもともと初日は大瀬港まで足を延ばすプランを組んでいた私だったが、日曜日の予報は雨。

意外と根性のない釣り人が多くて犬走島堤防も空いてるかもしれないと考えた私は、現地の様子を見て何事も臨機応変に判断することにする。


お供はもう何度も共に釣行している男が一名、以前、三崎港(花暮岸壁)でいきなりメバルを四尾連続で釣り上げた功績に敬意を表し、まぁここでは「メバルマン」とでもよぶことにしよう。

東京から三時間ほどで下田入りし、まずは二人して「上の山亭」で腹ごしらえ。


私のオーダーは「刺身定食(一,七六〇円)」。





値段は少々はるが、そんなことはすぐに忘れてしまうくらい弾力のある風味豊かな地魚の刺身を楽しめる逸品だ。


一緒に運ばれて来た貝汁からはおよそ食用とは思えない貝がぞろぞろ顔を出す。





まぁ地元でしかお目にかかれないレアーな郷土料理ってことにしておこう。


ついでに通り向かいの、東京側から見て一〇〇米かそこら手前には終日営業の釣具屋まであって、本当に釣り人にとってはいたれり尽くせりな食堂だ。


その釣具屋は昼間の二時間ほどは店を閉めるらしいので二四時間営業というわけではないが、まぁその時間帯に何かを調達する必要に迫られたとしても、近隣のほかの釣具屋は開いてるだろうから何の問題もない。

アオイソメを1パック(六〇〇円)だけ購入して、まずは犬走島堤防の偵察へと向かう。


一四〇〇時頃に現地に着いてみると、駐車場こそ一台分しか空きがなかったが(もちろん私が占有した)、釣り人は一〇組もいないようで、好きな釣り座で釣りが出来そうだ。そしてありがたいことに雨も降ってない。

大瀬港はまたの機会ということにして、私たちは二試合とも犬走島堤防で勝負することにした。


荷物を車のトランクから降ろしてキャリーカートに手際よく積みかえ、堤防入口へと向かう。入口へは貸竿屋の敷地らしきところを通り抜けて行かなければならないが、そこには人相の悪いとは言わないまでも、一見したところ決して友好的には見えない地元の釣り人らしき人々がたむろしているので、初めてそこを訪問したよそ者の釣り人は少々近寄りがたい雰囲気を感じずにはいられないかもしれない。

だが、そこにたむろしていた人々はたぶん毎朝、堤防の清掃に取り組んでいる有志の人々だ。翌朝、私たちが釣りをしているときにも掃除がてら気さくに声をかけて来てくれた。釣り場の環境保全のための具体的な行動に取り組む彼らに対して感謝の念を抱きこそすれ、恐れる理由などどこにもない。


ところでこの堤防の手前側の舗装状態はまったくひどいものだった。凸凹どころか、先が鋭利にとがった石がむき出しになったまま敷き詰められている一帯があって、普通に歩いていく分には何も問題はないが、その一帯にカートを引いて足を踏み入れるにはそれなりの覚悟が必要だ。

カートを引いて行くのが大変だ、というだけでなくて、カートの車輪がボロボロになってしまう、という意味で。


私が鋭意収集した情報によれば、中央付近の「くの字」に曲がる角のあたりが小メジナの宝庫らしい。私の数少ない経験から導き出されるセオリーのひとつに、小メジナがたむろする層のすぐ下の層には中メジナがいる、というものがある。

どうせ堤防釣りなんだから大メジナまで狙うのは現実的ではない。それにこういう地形のポイントは、アジやサバが回遊して来た場合、彼らだって通過せずにはいられないはずだ(そんなものは最後まで一匹たりとも現れなかったが)。


残念ながら角には先客がいたので、私たちはいったんそのすぐ手前側に釣り座を陣取ることにした。


ゴング前ののどかな風景。





サビキ仕掛けやチョイ投げで数々の小魚を仕留めて来た「メバルマン」だったが、今回はウキ釣りをやりたいので教えてくれ、と言う。私だって新米の釣り人なんだから、私が彼にそれを教えたところで小学校の二年生が一年生に算数の勉強を教えるようなものだと思うが、まぁウキ釣りにせよ、そもそも魚釣りという遊び自体にせよ、いざ初めて取り組むとなると少々ハードルが高く感じられるのは間違いない。

身近に経験者がいれば「教えてくれ」と申し出る気持ちはよくわかるってもんだ。


さて、そんな「メバルマン」にはしばらくシロギス狙いでチョイ投げでもやっててもらうことにして、私は特製のスペシャルブレンドコマセの製造に取り掛かる。


私が現地に持ち込んだのは解凍済みのオキアミブロックのLサイズが1ブロック、同じくアミエビ1ブロック、そして網代港で大活躍したグレ(メジナ)用集魚剤だ。

私のような大物狙いの釣り人にはLサイズのオキアミこそふさわしい。こいつは付けエサにも使用する。アミエビと集魚剤の放つ耐え難い悪臭は、魚たちにとってはその欲望を刺激する魅惑の香りとなって彼らを引き寄せる。どんな大物も、この私のブレンドしたスペシャルコマセの誘惑に抗うことなんてできはしないってわけだ。そうだろ?


ところでひょんな事から容量35リットルの「トランク大将」を所有する羽目になった私は今回も冷蔵設備係だったわけだが、あろうことか自宅を出発するときに冷凍庫でキンキンに凍らせておいた水入りペットボトルを「トランク大将」に詰め忘れるという初歩的なミスをしでかしてしまった事が現場で発覚したので、私は釣り場から最も近いローソンで氷を調達するために往復三〇分も歩かされる羽目になってしまった。何で車で行かないのかって?私が空けた駐車場のスペースに他の車が入ってしまったら私の車を置く場所がなくなって釣りどころではなくなってしまうからだ!


ローソンから汗だくになって釣り座に戻った私がようやく仕掛けまで完成させ、いつも愛用する一.五号の磯竿を片手に水辺に佇むことが出来たころには、もう一六〇〇時を少し過ぎていた。満潮まであとわずか三〇分。かなり時間を無駄にしちまったようだ。

ところで「メバルマン」は未だに小ハゼ一匹釣り上げてない。角にいた青年は帰ってしまったので、私たちはそそくさと移動し、当初の計画通り、とても潮通しのよさげな一級ポイントを確保した。


早速「スペシャルブレンド」を海中に投じてみるが、たちどころに魚という魚が先を争うように集まって来るにちがいない、という私の予想とは裏腹に何も起こらない。

うーむ、何かいやな予感がするな・・・。


堤防先端の方で釣っていた、いかにも釣りばかりして生きて来たようなオーラを漂わせる初老の釣り人が、私たちの隣に移動して来て私たちに声をかけながら釣り座をかまえた。

彼はカゴ釣りをやるようだ。私たちの撒いたコマセと彼がカゴから振り出すコマセの相乗効果で場をつくろうとでも思ったのだろうか。


まぁ新米釣り師の私としては偉大なる大ベテラン師の考え付いた戦略をいちいち詮索するよりも、ひとつの事実だけをシンプルに聞いてみたい。今日は何か釣れてるんだろうか?

私がその質問を投げかけると、ベテラン氏は「何も釣れない」とぼやいた。彼は本当に心からそう思ってる様子で私に言った。「本当に参ったよ」

げー、やっぱりだ。その答えを聞いただけで私もまったく同じ気分だぜ!


とりあえず私は「メバルマン」にふかせ釣りのセオリーを一通りレクチャーし、あとはやりながら覚えてくれ、と言って自分の釣りにとりかかることにする。

ウキは5B、ハリス1.5号に7号のグレ針付き、サルカンのあたりに2Bのガン玉をひとつだけ打って竿1本分ほどにタナをとる。ウキと錘がアンバランスなのは、仕掛けの馴染みに何か問題があった場合は、いちいちウキをいじらずにガン玉を付け足すだけで解決するためだ。

金をケチってブロックのオキアミを付けエサにも回すことにした私だったが、どうも今回入手したブロックのオキアミは身がドロドロしていて、細心の注意を払って針につけてもすぐに身が崩れてしまう。


釣り始めて一〇分も経ってなかったと思うが、何度か海中に投じてアタリのないまま引き上げてみるとオキアミが姿を消しているのを見て、やっぱり付けエサ用のオキアミを別に買うべきだったか、と反省をしていた頃に、突然私の竿がぐにゃりと曲がった!

率直に言って、これまでのつたないキャリアで味わったもののなかでは最強の引きだ。このポイントは小メジナのメッカとは聞いていたが、底の方に中メジナどころかジャンボメジナが潜んでやがったってことか!?

大洗の釣侍で「一番安い」という理由でチョイスして以来、苦楽を共にして来た1.5号の磯竿に絶対的な信頼を寄せながら、私は冷静に竿を立てて引きに耐えつつ、相手が力を抜いた瞬間に手早くリールを巻き上げる。

海中で暴れ回る魚の影が見えて来た。メジナじゃないな。背びれの特徴といい全体的なシルエットといい、どうもクロダイのような気がする。 いつの間にか現れて私の竿のしなり具合に興味を持った観光客らしき数人も私のすぐ後ろで固唾をのんでこの勝負の行方を見守っている。くっくっくっ、こいつは何があっても頂くしかないぜ。

私はちょっと出来る釣り人のふりをして、「見ろよ!クロダイがかかってるぜ!」なんて歓声をあげるようなみっともない真似をすることなく、つとめて冷静に振る舞いながら(まぁ周りの人々にそう見えていたのかどうかは私の知るところではないが)、セオリー通りの手順でリールを巻き上げた。


そしてこの勝負に決着をつける最終段階へと入るときが来るまでに、そう時間はかからなかった。さぁ、とっとと諦めて大人しく海面から姿を現すんだ。そしてその神々しい銀鱗をまとった王者の風格すら漂う魚体をこの目で拝ませてもらおうか。

こんなに早く結果が出るとは思わなかったが、ポイントの選定、タックルの選定、用意したエサと戦略、すべてが私の計算通りだったってわけだ。ついに海面から姿を現したのが四〇センチはあろうかという無駄に巨大な「アイゴ」だったこと以外は・・・。


その失望感は釣り人でなければ分からないだろう。例えて言うならば、壇蜜似の美女とようやくベッドインできて下着を脱がせてみたらペニスがついていたようなものだ。一気に気分のしらけた私は舌打ちをしてからそのアイゴをどう処理するかを考える。

そのまま力まかせに抜きあげるのが最もシンプルな解決法だが、下手をすると仕掛けをダメにするか、最悪の場合、空中から落下して来たヤツの毒針がこの世で最も不運なギャラリーのひとりの目にでも突き刺さっちまうかもしれない。


仕方がないので抜きあげられたヤツが観念して海面すれすれで大人しく宙ぶらりんになっているのを確認してから、左手で竿を保持したまま少し離れたところに放置してあったタモ網を拾おうとそっちに移動して右手をのばしながら私がしゃがんだとき、ヤツの高度も一緒に下がって一瞬ヤツが水の中に戻っちまった。すると待ってましたとばかりに息を吹き返したヤツが最後の力を振り絞って逃亡を試みてくれたおかげでハリスがプツンと切れて、人騒がせなアイゴ氏はあたふたと我が家へ帰って行った。


後で恥をかかないためにも、その目で確かめるまでは「クロダイだ!」などとはしゃいではならない、という事以外にもこの一件からは様々な教訓を得ることができる。たまたま相手が「アイゴ」だったからよかったようなものの、今後は不測の事態に備えてタモ網は常に迅速に出動させられる状態にしておかなければならないこと、一度海面から抜きあげた獲物は二度と海中に戻してはならない、ということ、そして私のタックルなら、あのサイズ、あの強さの獲物相手でも十分に渡り合えるということも。


そんな出来事があって一〇分も経たないうちに、今度は「メバルマン」が仕掛けを全部盗まれた、と騒ぎ出した。見てみると「メバルマン」の竿には道糸しか残ってなくて、海中に目をやると海面下一米くらいを「メバルマン」のオレンジ色のウキが気持ちよさそうにすいすい泳いでいる。「メバルマン」は初めて経験するウキ釣りのために、道糸に直接結び付けるだけで仕掛けが完成する「ウキ釣りセット」を使っていたが、そいつにかかった(「メバルマン」いわく)「大物」が、結び目から引きちぎって仕掛けを全部持って行ってしまったらしい。

はじめは何が起こったのかよく分かってなかった「メバルマン」だったが、次第に事態を飲み込んで、ウキ釣りの面白さに目覚めてしまったようだ。彼はそれとなくウキ釣りの仕掛けを−しかも彼が持参した「初心者セット」よりもっと頑丈なやつを−私に作り直してもらいたそうにしていたが、それは私に結構な時間を浪費させる要求なので、私は様々な理由をつけてそいつを諦めるように言い含め、今日のところは私の釣りが終わるまで「チョイ投げ」にでも興じてもらうことにした。


結局、私にも「メバルマン」にも、ついでに隣の大ベテランにも、それ以来、小魚一匹釣れない状況に業を煮やした私は、エギング用の仕掛けを手早く用意して、堤防中を練り歩いてみることにした。

私が手にしたのは上州屋でエギング入門者用として売り出されていたセットに含まれていた七フィートほどのロッドと、ナイロン3号ラインを巻いたダイワの2500番の組み合わせだ。入門者用セットはもともとPEラインを巻いたリールとのセットだったが、一度試してみたときに糸がらみばかり起こって釣りにならなかったのでPEラインはクビにした。


エギはクリアな緑色をチョイスした。オレンジやピンクが定番と言われているので、その裏を行こうってわけだ。ついでにしゃくりでアピールする釣法も、ナイロンラインではさほど効果を得られないであろうことも織り込み済みだ。

私のようなひよっ子が今までにこの釣り場を訪れた何十、何百という猛者たちと同じ戦略で臨んだところで、まず獲物を手にすることは出来ないだろう。そう考えた私は、あえてエビの形をした小魚を演出して、スローリトリーブ(って言うんだろ?)で、イカがいるなら多分そこに隠れているであろう海底に生い茂る海藻すれすれにそいつを泳がせる作戦に出た。新米は新米なりに頭を使わなければ。


もっとも私だっていきなり今の自分のスキルでイカが釣れると思い込むほど図々しい入門者ではない。今日のところはナイロンラインなら何度キャストしても糸がらみしないことや、私の採用したスタイルでエギをどれくらい飛ばせるのか、あるいは私の操作に連動するエギのアクションを実地確認できればそれでいい、と思っていた私は、ひととおり検証結果を手にして目的を果たし、それから足元をネンブツダイらしき群れが泳いでいるのを見つけて、ボートから海中に足を垂らしてぶらぶらさせている無防備な人間に不気味に近づくジョーズよろしく私のエギをこっそりそのネンブツダイの群れに近づけてみたら何が起こるだろう、と、暇潰しに五〇米ほど沖合から泳いできた私のエギを操作してそーっと群れの方へと寄せてみた。

そしてまさに彼らの下方から私のエギがネンブツダイたちに襲いかかろうとしたその瞬間、何者かが私のエギに襲いかかってロッドをぐにゃりと曲げたので私は思わず罵り声をあげた!


くそっ!アイゴといい「メバルマン」の仕掛けを持って行っちまったやつと言い、やけに大物ばかり掛かりやがる釣り場だな。そして今度のやつもさっきのアイゴに負けず劣らず強烈な引きだ。しかし今度ばかりは相手の正体がまるで分からない。何だってイカを釣るために流通してるエギにこんな屈強な怪物が飛びかかって来やがったんだ?

わけも分からず混乱したまま、とは言え釣り人としての本能にまかせて竿を立てつつ引きに耐え、それから相手の隙をついてリールを巻きにかかる。やがてやや濁った海面から腹が白くて平べったい「何者か」が姿を現した。何だ?エイか?だとしたらまた毒針持ちの嫌われ者じゃないか。

海面でのたうち回って最後の抵抗を試みるそいつのサイズは、ぱっと見たところ三〇センチかそこらのようだ。さっきのアイゴよりもやや小ぶりだが、何だかこいつの方がよりパワフルに感じられる。そもそもさっきとはタックルのポテンシャルがまるで違うこともあって、こちとら防戦一方だ。いやいや、そんなことより、このままだとマジでロッドが折れちまいそうだ。


そんなときはどうするんだ?あぁ、一旦ドラグを緩めて長期戦に持ち込むんだっけ?聞きかじった程度の中途半端な知識をもとに一番バカなチョイスをした私の手元がすっと軽くなった。ラインが緩んで獲物に掛かっていた針が抜けてしまったようだ。

エギを回収してみるとカンナの針が一本ひん曲がっていた。くそっ!しっかり針掛かりしてやがったんだ。海面までは巻き上げたんだから、うまくやってれば勝てた勝負だったに違いない。


すぐ後ろで釣っていた別のベテラン師に「今のは何だったんだ?」と聞かれて正直に分からないと答えながら、両翼をパタパタさせるのではなく全身でもんどり打って抵抗していたその姿、長いしっぽが見えなかったこと、そしてエギに襲いかかったその食性から、あれは沖から海底近くを私がゆっくり引いて来たエギに狙いをつけて追いかけて来たヒラメだったのではないか、と私は思った。釣り上げていたら大金星だったってのに、まったく何てこった。


だがこの一件から私が得た教訓も貴重なものばかりだ。まず、軽い気持ちでランガンするにせよ、タモ網はちゃんと持ち歩くべきだった。ファイト中はそもそもタモ網を使うという発想すら頭に浮かばなかったが、それはただ単に私の経験不足に起因する珍事なのであって次からそんな事はありえない。エギにヒラメ(と思われる生物)が飛び掛かるなんてたしかに事故のようなものだ。よろしい、ではイカが掛かってたとしたら?やっぱりタモ網は必要だったじゃないか。


それに私は率直に言ってこの出来事を経験するまで、ルアーという名前のオモチャに魚が食いつくという事態を実際に私の身の回りで起こりうるイベントとして認識していなかった。ルアー釣りとは何か特殊な技術を持っている一部の名人だけが楽しむことのできる、私には縁のない高貴なスポーツだと思っていたが、何だ、私のようなヘボルアーマンのルアーにだって、食いつく魚はちゃんといるじゃないか。


日も暮れてしまい、結局、下田くんだりまで乗り込んで来ておきながら、まさかの「ボーズ」で釣り場を後にした私たちが向かったのは「魚河岸」。


金目煮付定食。一,七〇〇円。絶品。





ただ「メバルマン」がオーダーした刺身定食から分けてもらったサバを一切れ口にして私は一抹の不安を覚えた。率直に言って鮮度が悪いとしか思えない。数時間後にじんましんの出た全身を掻きむしりながら便所で白目を剥いてうめき声をあげる羽目にならなければいいが・・・。だいたい煮付けだと刺身と違って魚の質は悪くても煮汁の味付けでごまかせちまうからな。

いや、まぁそれでも煮付定食の方は絶品だったと思う(結局、恐れていたような症状は発症しなかった)。


安宿に一泊して〇三〇〇時には起床し、「メバルマン」がなくしてしまったのと同じようなインスタントなウキ仕掛けがあるかもしれない、と例の釣具屋に立ち寄ってみたが、そんな都合のいい仕掛けは置いてなくて、仕方がないので私が仕掛けを作ってやることにして、それはそうと彼の腕を信頼してないわけではないが一応保険代わりに「ウキ止めゴム(ウキの紛失防止用)」を入手してから現地へと向かう。


空の白んだ〇四時三〇分頃に現地到着。昨日にもまして釣り場は閑散としている。


性懲りもなく昨日と同じ「く」の字のコーナーを占拠して、「メバルマン」の仕掛けを作り始めたのだが、昨日とは打って変って強風が吹き付けるので何とも仕掛けが作り辛い。

結局、私が自分の仕掛けも準備して釣りを開始したのは〇六〇〇時少し前のことだった。いったい何だって私はいつもいつもスタートの段取りがこうも悪いんだ?


昨日使い切れなかった分に余っていた集魚剤と海水を加えてかさ増ししたコマセを海中に撒く。相変わらず魚の影は見えない。まぁコマセは辛抱強く撒き続けることにこそ意味があるって何かのガイドブックにも書いてあったっけ。


たぶん私が釣りを開始して五分も経ってなかったと思うが、昨日と同様に、突然、大洗の釣侍で「一番安い」という理由でチョイスして以来、苦楽を共にして来た私の1.5号の磯竿がぐにゃりと曲がった!うへー、今度は何だ!?


いつもの手順でクールに巻き上げた仕掛けに掛かっていたのは巨大なカワハギだ。くそっ!さては、昨日さんざん私のオキアミを人知れず食い逃げしてやがったのはお前だな?

昨日の「アイゴ先生」が教えてくれた教訓を活かすシーンが早くもやって来たってわけだ。私は今度こそ獲物を宙に浮かせたまま、すぐ手元に置いてあったタモ網をスムーズに手に取り海面へとのばす。だが腹立たしいことに「三浦フィッシングセンター」で思いつきで購入したその安物のタモ網は微妙に長さが足りない。

「メバルマン」にタモ網を渡して協力を依頼してみたが、お互い初めての経験だ。ちっとも息が合ってないのでその連携作業は全くうまくいかない。まだ自分でやった方がましだと判断した私は再度タモ網を手にし、とにかくカワハギを二度と海面以下の高さに下げないように細心の注意を払いながら、最終的にようやくそいつの捕獲に成功した。


「アイゴ先生」に感謝をしつつ、無事、手中に収めた三〇センチのジャンボカワハギ。





もちろんそいつは私が帰宅してから、呑み屋で注文したら一〇人前はくだらない量の刺身と、まる一匹分の肝に姿を変えたわけだが(いったい市価にするといくらに相当するんだろうか)、いや、そりゃぁもう美味かったの何のって。


「ランカーサイズ」の獲物を一枚手にして十分に満足し、今日はもうそれ以上頑張らないことにした私とは対照的に、目の前で「ウキ釣り」によって大物が釣り上げられる情景を目の当たりにした「メバルマン」の方は俄然やる気が出て来たようだ。そしておあつらえ向きに、二〇分ほどしつこくコマセを撒いているうちに、事前に入手していた情報通り、そのポイントに「小メジナ」の群れが現れた。

それからは「メバルマン」の独壇場だったと言っても言い過ぎではないだろう。一〇〜一五センチほどの小メジナをあれよあれよと釣り上げて行く。私は二、三枚釣ったところで飽きてしまったが、「メバルマン」はそのうち自分の気に入らないサイズのやつは一丁前にリリースなどしながら、初めての「ウキ釣り」を存分に楽しんだ。


結局、「小メジナ」が群れる層の下の層には「中メジナ」がいる、という私の当ては外れて、上から下まですべて「小メジナ」しかいないと判断した私は、今日もまた素晴らしい仕事をしてくれた磯竿を早々に仕舞って、昨日ほとんど余ってしまったので海水を少々まぶしておいたら未だにうねうね元気に動いているアオイソメでチョイ投げに励んでみることにした。

乙浜漁港では四号のナイロンライン直結で一〇号の天秤を投げてみたが、ラインの強度には何の問題もなさそうだったので、今回は三号のラインで一〇号の天秤を投げてみることにする。結論から言えば、その組み合わせでも強度に何の問題もないばかりか、飛距離も目測で二、三〇パーセントほどアップした。もっとも、そいつはただ単に乙浜では向かい風だったがこの釣り場では追い風だったからかもしれない。


ちなみにこの釣り場は乙浜港と違って根掛かりが多発するので一度投げたら置き竿にした方がよさそうだ。


釣れたのはやや小ぶりなメゴチ一匹。持ち帰って天ぷらにして、まぁまぁ美味。





帰り支度を始めた頃に私たちの様子を見に来た、これまたベテランの釣り人らしき人物の情報によれば、昨日も今日も海水温が下がっていて地元の釣り人たちはみな苦戦を強いられていたらしい。たしかに周りの釣り人で「これは」という獲物を釣り上げた幸運な人物を私は一人も見かけなかった(私が気付いてなかっただけかもしれないが)。

あぁ、分かっているとも。私の今日の戦果は「まぐれ」ってやつさ。だが間違いなく釣り人としての「経験値」はアップし、私は釣り人としてまた一段上のステージへと階段を登った。


昼前に釣り場を撤収し、下田を発つ前に最後に堪能した「ごろさや」の「地あじたたき&なめろう定食」。





まったくこのエリアは釣り物も素晴らしいがグルメも一級品ばかりじゃないか。私は初めて訪問した下田の街が大好きになった。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。








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