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July 19, 2015


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

性懲りもなくアジとクロダイ狙いで南房の乙浜漁港へ。それにしたって、もうかれこれ一年近くもアジを追っかけてるのにちっとも釣れやしないじゃないか。


満潮が一八四〇時と翌〇五四〇時という格好の潮回りなので、今回は夕方から明け方まで釣るスタイルにする。そうは言っても気象予報によれば日付が変わる頃にはゲリラ豪雨のおそれすらあるうえに風は終始風速一〇米/秒前後で吹き荒れるとある。

率直に言って、潮回り以外の条件は「サイテー」だ。


メンバーはいつもの「メバルマン」に加えて一年前の船釣りでは一度も竿を握ることなくひたすら海に向かってゲロを吐いていた人物も参加する。何でも最近、自宅マンションの管理組合の理事長に就任されたようなので、ここでは「理事長」とでも呼ぶことにしよう(個人的には「ゲロのひと」でも構わないのだが)。


「アタック5」に寄り道をして一七〇〇時に現地着。もともとは前回と同じく南側の護岸から港内向きに釣り座を構える予定だったが、気象予報が芳しくないからか、人気のポイントとされるトイレ側の突堤には釣り人が先端部に二人しかいない。たしか護岸よりこっちの方が水深が深いはずだ。私は二人に指示して突堤の東向きの中ほどを占領させた。デキる釣り人は現場を見て何事も臨機応変に対応しなければ。


私はいつも通り、多彩な魚種に柔軟に対応できるように五.三米の磯竿で「ふかせ釣り」、残る二人はアジ狙いの「カゴ釣り」で挑む。だいたい私が二人に誘われて一番最後に釣りを始めたって言うのに、彼らはお世辞にも勉強熱心とは言えないので、今回にいたっては私が彼らの使う仕掛けをわざわざ自宅で作って持って来てやる始末だ。


そんなわけで彼らは釣り座に着いてすぐに釣りを開始することが出来たわけだが、私が自分の釣りの準備をしていると、間もなく「メバルマン」の竿が程よく曲がって彼は猛然とリールを巻き始めた。ほほぉ、やつの仕掛けにかかったのはいったい何だ!?


何と、彼が釣り上げたのは「尺アジ」かと思われるほど(あとで計ってみたら二七センチだった)巨大な「黄金アジ」だった。げー!私に仕掛けを用意させておきながら私の準備も終わらないうちにそんな大物を釣りやがって、この野郎!


平静を装いながらも私の仕掛を準備するピッチが上がる。ひとつだけ言えることは、今回やつの仕掛けを作ったのは私で、結局この場を仕切っているのは私だ、ということだ。タナは三.〇米、付け餌はLサイズのオキアミ。すべてが私の計算通りに進んでいる。

ウキ下をぴったり三.〇米に合わせ、ガイドブックのお手本に寸分違わないほど丁寧にオキアミを針に刺すと、久慈漁港で余ったので自宅の冷凍庫に保管しておいた「チヌ何とか」とパッケージに掛かれた集魚剤入りの撒き餌をばら撒きながら、私は華麗に仕掛けを海中に投じる。間もなく私のウキも海面下に消し込んだ。





ひゃー、神様は何て公平なんだ!


このランクのアジだと時合いはそう長くないだろう。手返しが要求される場面だが、二尾めが針をしっかり飲み込んでくれたおかげでハリスを交換しなければならなくなった。くっ!こんなときに限って舐めたまねを。

結局、必ずしも私が十分釣りに集中することが出来ないうちに、たぶんたったの一五分ほどで祭りは終わった。


終わってみれば一尾バラしてしまったこともあって私が釣り上げたのは三尾。「メバルマン」も三尾、全てが二五センチ前後の粒揃いだ。「理事長」も、わざわざエラをひっかけに針の方へと泳いできてくれた親切なやつを一尾釣り上げて面目を保った。まぁ、あんまり釣り過ぎて自宅のキッチンでの作業が気の遠くなるようなボリュームになっちまうのも考え物だしな。私たちはひとまずその結果に満足して互いの健闘を称え合った。


何も釣れない時間がやって来て、一九〇〇時を過ぎた頃には早くも二人が空腹を訴え、「飯を食いに行くがどうだ?」と言い出したのだが、私は丁重に断った。

もともと夕方の釣り場は夕食どきに一度撤収して私も食事に出かける予定だったが、せっかくこの豊漁ポイントを押さえた以上、できれば朝までここを放棄したくない。おかげで私の夕食はザックにしのばせておいた「ポテトチップス」だ。


二人が夕食へと出かけて、もともといた釣り人も一人帰ってしまったので、突堤上には私と、雨合羽に素顔を隠して尋常ならざるオーラを漂わせている大ベテランらしき不気味な釣り人の二人っきりになってしまった。

ベテラン師のウキは突堤から二〇米ほど東の海面に静かに浮いていて、それは私たちがここにやって来たときから全く変化がなかった。私たちが上物のアジを釣り上げて歓喜しているときにも、件のベテラン師は身じろぎひとつせず静かにパイプ椅子に腰をかけてじっと自分のウキを見つめていた。


事態を正しく理解してない私が、私たちがそこに参上して以来、小魚一匹釣り上げてないそのベテラン師に向かって、心の中で「そんなに沖でアジは釣れないんだぜ、爺さん」とこっそり呟いたことは認めよう。素直にもっと手前を狙えばいいのに、とか何とか思ったことも事実だ。だがベテラン師には私たちが釣って大喜びしていた「良型の黄金アジ」など、はなから眼中になかった。

彼が仕掛けのチェックのために手元にそれを引き寄せているのを見て分かったことだが、彼は私たちが釣ったのとそう変わらない立派な大アジを「活きエサにして」、じっと大物のアオリイカを狙っていたのだから!


私は釣り人たちの間にも、あの悪名高いカースト制度よりも強固な、越えるに越えられない「身分の違い」があることを学習した。


すっかり日が暮れて、私の立っている場所が近くの旅館のネオン灯の灯りがなければ本当に真っ暗闇になってしまいそうになった頃、ぼんやり考え事をしながら浮かべていた私の電気ウキが勢いよく海面下に消し込んだ。さぁ、仕事の時間だ。

アジの群れが去ってからかなり時間が経ってるから今さらやつらじゃないだろう。そもそも引きのトルクがアジとはまるで違う。まさに「磯魚」のそれだ。くっくっく、こいつはもしやひょっとして・・・?


夜が明けてから私が両手に抱えた大物の「クロダイ」を自慢げにカメラに向けて記念撮影に興じているさまを思い浮かべながら、腰を下ろしていた「トランク大将」からゆっくりと立ち上がって勝負を開始しようとしたそのとき、あっけなくハリスがプツンと切れてそいつは漆黒の海中へと逃げて行った。何だよ!まだ何にもしちゃいないじゃないか!


一.五号のハリスをいとも簡単に切られた私は二.〇号のハリスに差し替えてしばらく粘ってみたが遅かった。食事に出かけていた二人が戻って来て、そのまま車の中で寝る、と言う。とにかく風がびゅーびゅー吹き付けるので「釣りなんてやってられないぜ!」ってことらしい。私も、私のハリスを引きちぎったまだ見ぬ「大物」を一旦諦めて、釣り座に置いた道具はそのままに、気分転換にルアーを通しに港じゅうを徘徊することにした。


トイレ前の護岸では一〇組ほどの釣り人がサビキ釣りみたいなことをやっていた。ちょっと歩けばここよりも明らかに獲物に恵まれてそうな突堤があるというのに、誰もそっちに行かないのは、護岸には常夜灯が何本も立っていて見るからに安全だからだろう。

あるいは常夜灯周りには魚が集まるという、よく耳にする「教え」を信じてそうしてるのだろうか。だがどんな魚種であるにせよ、私のターゲットであるべき経験値が豊富で警戒心も強いと思われる「大物」は、安易に煌々と灯りの照らす岸際までふらふらやって来たりしないだろう。


忌々しい風にもめげずに釣り人のあまりいないスペースを見つけては、上州屋でみつけた1個四八〇円の「シンキングミノー」をひたすら投じて引いてみる。強風はふかせ釣りにも厄介だが、ルアー釣りに与える影響はまことに計り知れない。

風は南西方向から吹き付けて来る。護岸から南向け−正面−にルアーを投げたはずなのに、引いて来ると一〇時の方向(東南東)からルアーが戻って来ることすらあった。もちろん私のキャストがヘタクソ過ぎてそうなったわけではない。どれだけひどい風だったか分かるだろう?


日付が変わる頃まで護岸上を練り歩いてあらゆる方向にルアーを通しつつ何本かの活きのいい海藻を釣り上げたところで私は突堤の釣り座に戻ってひと眠りすることにした。風がびゅーびゅー吹き付ける幅五米、海面までの高さが三米ほどの堤防の上で好き好んで仮眠をとる釣り人は、ひょっとすると世の中にあまりいないかもしれない。

それがどうしたって言うんだ?冬山でときに味わう寒さと恐怖を思えばちっとも騒ぎたてるほどのことでもない。


結局、大ベテラン師は何も釣れないまま引き上げたようで、突堤には私ひとりだけになってしまった。もちろん私はベテラン師が放棄した先端部を自分の釣り道具で占領し、テント用のマットをしいて急ごしらえのベッドを作り、トランク大将とツールボックスを並べて風よけにした。横になった私に容赦なく吹き付ける風を完全に防ぎきることは出来なかったが、それでもそれらの風よけのおかげで私の寝床はいくらか快適になった。


びゅーびゅーと吹き付けていた風がいつしかごうごうと吹き付けるなか、南の堤防側から聞こえてくる荒れ狂う波の音にもいつしか慣れてしまった私がうつらうつらしていた頃に、突然、誰かが私の顔を強烈なライトで照らしたので私は驚いて目を覚ました。

どうやら突堤上に今夜初めてのゲストが現れたようだ。太った坊主頭と、これと言って特徴のない若者の二人組で、坊主の方の無駄に高性能なヘッドライトが何度も私の顔を照らすので私は少々イラついた。


別に坊主頭は悪気があってそうしてるわけではなさそうだ。つまり隣に立ってる相棒と会話をするために相棒の方を見る度に、相棒の延長線上にいる私の顔が眩しいライトで照らし出されるってわけだ。気配りの足りないやつらだとは思うが、彼らに言わせればこんなところで寝ている私の方が頭がイカれてるってことになるだろう。文句を言うわけにもいかない。


私は再び眠りにつこうとしたが、ほんの数分もしないうちに相棒の方が「よぉ、かかったぜ!」と坊主頭に大声で知らせるのを聞いてマットの上で思わず飛び起きた。

相棒は東側に向けてルアーをキャストしたようだ。そこは寝床に着くまでに私が散々ルアーを通したところでもある。水深が浅いのか何なのか、それほど沈めずにルアーを引いたのに何度も海藻が引っかかっって来たゾーンでもあり、そして例のベテラン師がそいつを見越したかのように、海藻の際を棲家とするアオリイカを狙って何時間も粘ったゾーンでもあった。

「落ち着いてやれよ!」と坊主頭が興奮しながら自分にかけるべき言葉を相棒に投げかける。私はマットの上に座り込んでじっと相棒のロッドの先端を見守る。私の目利きではどう見ても魚がかかってるようには見えないんだが、相棒は頭からそう信じている風だ。


やがて回収された仕掛けの先には思ったとおり、立派な海藻がぶら下がっていたので、私はつい心の中で「ふざけてるのか?」と呟いたのだが、眠りを妨げられて少々いらついていた私は、ひょっとするとはっきり声に出してしまったかもしれない。

分かっているとも、そこは本来、人が睡眠をとるべき場所ではない。私の怒りは半分八つ当たりのようなものだった。


私がそのまま寝床に戻ると、それから数投ほど試した二人は「風が強くて釣りにならないぜ!」と捨て台詞を吐いてどこかに行ってしまった。オーケー、そいつは私も全く同じ意見だ。でもいちいち口に出して言うことか?


〇四三〇時の夜明けに備えて〇三三〇時まで仮眠をとってから朝釣りの準備を始める計画だったが、あまりに風が強くて、さすがの私も〇三〇〇時前には震えが来るほど身体が冷えて来たので予定より早く起床する。

まぁ風はともかく予報では降ることになっていた大雨が降らなかったことだけは幸運だったというほかはない。


袋にまだたっぷり残っている「チヌ何とか」を撒き餌に追加して海水ごと撹拌し、朝の「ふかせ釣り」に使う分を補充するとともに、竿立てに立てておいた竿を見てみると風のせいで道糸が蔦系の植物のつるのように何重にも巻きついてしまっていたので、そいつを丁寧にほどく作業に明け暮れる。ようやく準備が整った頃に東の空が白んで来た。ちょうどいいタイミングだ。


私が突堤先端の東側に仕掛けを垂らして釣りを開始したころに「メバルマン」と「理事長」も起きて来た。相変わらず風が強いので「理事長」はすごすごと車に戻って行ったが、「メバルマン」は自分の竿を手にとってカゴに撒き餌を詰め始めた。

朝のゴールデンタイムに合わせて釣り人も続々と港にやって来る。ほとんどの釣り人が「安全な」便所の前の護岸に釣り座を構えたが、一組だけ突堤までやって来て昨日私たちが陣取ったポイントで釣りの準備を始めた。


〇四三〇時の夜明け直後からしばらくは何も起きなかったが、〇五四〇時の満潮からしばらくして、たぶん下げ潮に転じた頃に、まずマイワシがかかった。釣り上げられて堤防上に横たわったマイワシはセメント上を泳ぐかのようにプルプルと身体を震わせるのだが、そのたびに彼のうろこが一〇枚、二〇枚と剥がれて周囲に飛び散って行く。私は一切手を触れてないのに見る見る彼の姿は変わり果てて行き、最後は目玉まで飛び出して全身ボロボロの姿でマイワシ氏は壮絶な最期を遂げた。


五分もしないうちにまたしても私の針に何者かがかかった。朝日をバックに浮かび上がる釣り上げられたそいつのシルエットを見て私は隣の「メバルマン」に「イワシ釣りの時間だぜ!」と声をかけたが、陸揚げしてみると魚体が妙に赤っぽい。何だこいつは?

「ムツじゃないか?」と「メバルマン」が言った。おっしゃるとおりだ。彼は釣りのスキルはともかく明らかに私よりも博学だ。


体長一八センチほどの「むつっ子」。





最後に私のウキを一気に水面下に沈めたのは一四センチほどの小メバルだった。





今回の釣果。





終わってみれば夕方の一時間だけ釣ってさっさと帰ってればよかった気もするが、まぁ何事も経験を積むことに意味があるのだ、ということにしておこう。


〇六三〇時に帰り支度を始め、小用を足しに便所に向かいがてら護岸に並ぶ釣り人たちの様子を窺ってみると、みんなサビキ釣りで小イワシを鈴なりに釣り上げているようだった。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。






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