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私が両神山に目をつけたのは、随分前にあるガイドブックを読んでいた時だった。そのガイドブックはどちらかというと登山入門者向けのもので、きわめて基本的な登山技術を紹介する傍ら、実際にいくつかの山のハイキングコースを取り上げ、それに即した形で登山技術の実践方法が解説されていた。その本の中で両神山は、鎖場を始めとする危険箇所をクリアする技術を要求される、初級者から中級者への最後のステップアップの舞台として取り上げられていた。
両神山/二子山から望むぎざぎざの稜線 折しも例によってクレイジーなハイカーであらせられる「しょこたん」の発案によって秩父の二子山ハイキングへと出かける羽目になった私は、東岳の頂上から両神山の独特なぎざぎざの稜線を間近に見る機会に恵まれた。それは実に奇怪なフォルムをした、今までに私が踏破して来た凡庸な山々とは全く異質のオーラを感じさせる山容で、私には例の百選にその山がリストアップされた事は全く自然な事であるように思われた。

私はその一目でそれと分かる特徴ある稜線を指さしながら、その場にいた全員、つまり、しょこたん、ジャンキー、そして二子山で初めて山行を共にしたトミーの三人に、来月はあれに登ろうと提案した。彼らは皆、その案を二つ返事で了承した。
その後、二子山の西岳へと続く恐ろしい稜線を歩いている間も、左手を見ればいつだって両神山のぎざぎざした稜線が私の目に飛び込んで来た。私は必ずあの稜線のどこかにある山頂にこの足で立つ事を心の中で誓った。
 

ところで私のガイドブックに「中級者向け」として取り上げられていたのは「日向大谷コース」という、比較的よく整備されているとされるコースだったが、隅の方に小さく「七滝沢コース」と呼ばれる、やや上級者向けのコースもある、と書かれていた。私にはそのガイドブックが「中級者向け」とするコースの相場は五月に敢行された伊吹山のハイキングでだいたい分かっていた。伊吹山を甘く見ているわけではないが、あの山はハイカーと呼ぶには貧弱な装備と技術しか持たない観光客くずれのような連中でも登り下り出来てしまう山だ。私は伊吹山でのハイキングを終えて以来、私はもう少しハードな山行に挑むべきだ、と考え続けていた。私はその「七滝沢コース」に大いに興味をそそられた。

私はインターネット上で閲覧可能な、そこを既に走破した数々のハイカーたちの記録を精査した。山道が多少狭いらしく、それで足を滑らせて崖の下まで落ちて死んでしまうハイカーがたまにいるらしいが、そんなのはただ単に「不注意」と呼ぶのであって、その事を以て私がこのコースを敬遠する理由にはならない、というのが私の判断だった。それに今回編成されるチームのメンバー全員が何の問題もなくあの二子山をクリアした精鋭揃いだ。私たちが一般的な「日向大谷コース」ではなくて、その「七滝沢コース」を選択する事を再考したくなるような事情は全く見当たらなかった。

おまけに、何でもその概ね「七滝沢」なる沢沿いにつけられたコースの途中には、鑑賞に値するいくつかの滝まであると言う。私は参加者全員に、当日のハイキングコースは「七滝沢コース」であるうえに、途中に現れる滝を全て鑑賞したうえで山頂を目指す、という計画がこの私によって立案された事をEメールで通知した。誰からもそれに対して異論を差し挟むメールが返信されて来る事はなかった。
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