banner_top | Home | Military | Trekking | Gourmet | Life | Contact |
<< 前へ 次へ >>

それはとても残念なことだったが、ハイキングの決行当日までに「ジャンキー」が計画から離脱した。「ジャンキー」は後から同じ日に開催される事が決まった同僚たちとのバーベキューパーティーへの参加を優先する事にした。そのことについて、私が彼を呼び出して説教がましい事を言うのは適切ではない、と私は思った。大のおとなが休日をどのように過ごすかについて、私は誰かにえらそうに意見を主張する立場にはなかった。それに二子山でのハイキングが想定以上に彼に怖い思いをさせた事も私は知っていた。彼にはいま暫くの心の休息が必要だった。

代わりに、トミーが一人友人を連れて来る事になった。トミーとその友人は何度かハイキングに出かけた事があり、その友人は全くの未経験者ではなかった。だが私たちと二子山に出かける前のトミーがそうであったように、前回その友人が山に出かけてから一年あまりのブランクがあるらしい。それにしたっていきなり二子山に連れて行かれるよりは、「七滝沢コース」の方が百倍ましだろう。私とトミーの意見は一致した。
 

その日、私たちは六時半には集合場所へと集結した。私としょこたんとは初顔合わせとなるトミーの友人は実に気さくな人物で、テレビで流れる缶コーヒーのコマーシャルで過剰な善人を演じるある俳優に似た顔立ちをしていたので、私はこっそり彼の事を「ボス」と呼ぶことにした。

ハイキングこそ久しぶりであるものの、普段からジョギングにいそしんでいるという「ボス」はその日のハイキングがとても楽しみだ、と言った。私たちは挨拶もそこそこに、トミーのアウディに乗り込んで日向大谷の登山口を目指して出発した。
 

その頃、トミーも加えて私たちいつものメンバーは、この夏にでも北アルプスの山々にチャレンジするべきだ、という合意が形成されつつあった。移動中の車内で私たちがその計画について意見交換をしていたとき、私は車中で初対面となるトミーの友人「ボス」にもその話を持ちかけたのだが、良き夫であり良き父親でもある「ボス」は、家族を置いて泊りがけでハイキングに出かけるというのはなかなか困難な事だ、と答えた。

なるほど、そいつは全くごもっともな回答だった。ハイキングが大好きである事と、それに見合った「暇」を持て余している事とは全く別の問題だったし、私はそのときそんな暇がある人物は実に限られている事を学習した。私はそれ以上、私たちのとてもエキサイティングな計画について、その場では話題にしない事にした。
<< 前へ 次へ >>
Copyright (C)2011 Lt.Pussy All Rights Reserved.