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とみや/鯛めし定食(1)

【 Data 】

愛媛県宇和島市錦町9-9 [MAP]

TEL:0895-22-1697

営業時間:11:00〜14:00 16:00〜21:00

定休日:木曜日

最終訪問:2013.08

松山市内で五志喜と二件続けて素晴らしい鯛飯を堪能した私が、橋の上から飛び込むというプロジェクトのために、宿泊していた西条から四万十川へ出かけるにあたって、その途中に本場「宇和島」の鯛飯屋を訪問する事は、私にとって息をするのと同じくらい当たり前の事だった。つまり私の人生の中で鯛飯というものを知らないまま失われてしまった長い年月を取り戻すために、私はいま私に出来るあらゆる事をやってのける覚悟だった。

インターネットで事前にリサーチを行った結果、宇和島港界隈で、私がそこを訪れる日曜日の昼時にも営業している感心な鯛飯屋で、私をしてそこを訪問する価値がありそうな店は二件ほどあった。うち一件はいかにも観光客向けといった風情を醸し出していたが、この「とみや」という店の方は、私の一方的な基準に照らし合わせていい塩梅で小汚さを感じたので、私はこっちを選んだ。そういう佇まいの店にこそ往々にして私の探し求める宝物が眠ってるものだ。

車を置く場所の選定に少々苦労した私は、ちょっと離れたローソンの駐車場に車を停め、そこから速足で住宅街を五分ほど歩いて店の前に到着した。早速カメラを取り出して店構えを撮影しようとしたら、あろう事か私のカメラにSDカードが挿入されていなかった。そう言えば昨日データを移すためにホテルの部屋に置いて来たノートパソコンに差してそのままにしていた。何てこった!これじゃぁこの店の鯛飯どころか日本最後の清流との呼び声高い四万十川のせせらぐ情景すら撮影する事が出来ないじゃないか!

新宿や秋葉原の駅前だったらそれは大きな問題ではなかっただろうが、事件はよりによって宇和島の駅前で起きた。アステカ遺跡で入れ歯を落としたお爺さんの方が、まだ探し物はすぐに見つかると思っただろう。あれ?私はふと閃いてさっき車を停めた場所へと急いだ。なぁ、おい、ビックカメラやソフマップじゃなくたってSDカードが手に入りそうな店が一件だけあるじゃないか。

ローソンの駐車場に着いた私は車には目もくれずに店内に入り、電池とか文房具が置いてあるコーナーを念入りに調べた。たぶん宇和島にはそれを必要とするか、使いこなせる人々があまりいないんだろう。今どき「写ルンです」が置いてあるのにSDカードは置いてなかった!諦めの悪い私は駅前に延びる商店街を練り歩き、それを置いてそうな店を一件一件しらみ潰しにあたる事にした。

やっとの思いで今にも廃業しそうな小さな写真屋で見つけたSDカードを過去に手に入れたどのカードよりも高値で入手した私が「とみや」に入店し、空いてるカウンター席を見つけて勝手にそこに座り、店員に「鯛めし定食」を注文してからその買ったばかりの「高価な」SDカードを開封し、カードをカメラに差しこんで問題なく動作するのを確認してからカードのケースを財布の小銭入れに入れようとファスナーを滑らせた瞬間、先週、何枚か写真をプリントしてもらうために東京の写真屋に持って行った別のSDカードが小銭入れからポロリと出て来た事はこの際どうだっていい。写真屋の親父さんは「ちょっと高いんだけど」と申し訳なさそうに値段を切り出したが、世の中は需給の法則で成り立っている。私は喜んでその代金を支払った。

「とみや」の店内は少々薄暗く、そこそこ客が入っているにも関わらずあまり活気に満ちていなかった。接客は二人の女性が担当していたが、傍から見ていても一人が完全にもう一人の足を引っ張っていて、全体として適切なレベルで機能していなかったので、私の後から入って来た客は入口で暫く立たされっ放しの目にあった。気が効く方の女性は持ち前の機転を活かし、暑いなか店を訪れた私にあろう事かスタッフの誰ひとりとしてまだ水を出していない事に気づくと、すぐにコップに水を注いで持って来てくれた。私は、その水が飲む気をなくすほどぬるかった事だけ残念に思った。

私の目の前ではかなり若い男が調理を担当していて、彼は生簀の鯛を網ですくうと俎板に押さえつけ、そいつを手際よく捌いたので、私は見ていて飽きなかった。だが彼が盛りつけていく料理の一品一品は全て私よりも先に入店した客のものだったようで、私の元には何も運ばれて来なかった。二〇分も待っただろうか、私が彼の仕事ぶりを観察したり店内をきょろきょろ見回すのに飽きて来た頃、ようやく私の前に「鯛めし定食」が差し出された。

そいつは主役である鯛飯の他にも鯛の煮付けや茹でた鯛の乗ったサラダ風の小鉢までついた、なかなか充実した「定食」だった。器に入ったタレに卵が浮いていて、私は何も考えずにその中で卵を溶いてなみなみと鯛を乗せたライスに注いでやったのだが、そいつはあまり賢明なやり方ではなかった。タレの量が少しばかり多過ぎる事を私が見落としたばかりに、私の鯛飯は何だかときとして酔っ払いが道端に置いて行く液状物質みたいになってしまった。でもそれってタレに卵が落とされた状態で提供される以上、誰がやったって起こる事なんじゃないか?

もし私が「鯛飯」という郷土料理をこの店で初めて口にしていたなら、私はこの店の「鯛飯」に言葉では表現できない感動を覚えたかもしれない。この店にとって不幸だったのは、私が既に松山で絶品としか言いようのない「鯛飯」を二食も堪能した後だった、という事だ。もちろんこの店の「鯛飯」が不味いとは思わないし、一三〇〇円という値段が高いとも思わない。どうしても冷たい水が飲みたければ店員にそう言えばすむ事だ。
とみや/鯛めし定食(2) とみや/鯛めし定食(3) とみや/鯛めし定食(4)


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