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鮮魚旬菜 吉/鯛めし

【 Data 】

愛媛県松山市二番町3-2-6 [MAP]

TEL:089-932-0705

営業時間:11:30〜14:00 17:00〜22:00

定休日:月曜日

最終訪問:2013.08

ビジネスのために生まれて初めて松山の地に降り立った私は、みかん以外の愛媛名物を知らなくて夕食に何を食えばいいのか分からず途方にくれた。インターネットで調べてみると「鯛めし」というのがB級愛媛名物であるらしい事が分かった。OK。じゃぁそいつはどこの店に行けば食えるんだ?

リサーチの結果、この店の存在が浮上した。宿泊先のホテルからはかなり離れているが、評判もまずまずで向かうだけの価値はありそうだ。ビジネスを片づけてからホテルを出発し、その店に着いたのは閉店一時間前のちょうど九時の事だった。

ガラガラと引き戸を開けると正面がカウンター席になっていて、その奥に大将と思しき男と女性店員の姿が見えた。場合によっては入店を断られそうな時間だったが、大将は「どうぞどうぞ」と私をカウンター席に誘なった。少々高級感の溢れる店の佇まい、大将が無言のうちに発するプロフェッショナルな貫禄、ただ単に「鯛めし」を提供している、という事実以上の何かを感じた私は、鯛めしだけを頂いて帰るのはもったいないのではないか、と直感的に感じた。

愛想のいい女性店員に差し出されたメニューを見てみると、地魚の造り盛りというのが一八〇〇円「から」で提供されている。出来れば値段ははっきりさせてもらいたいが、松山という街の真価を問うのに「地魚」を試してみる事は最短の近道であるように私は感じた。あまりに刺身が多過ぎて「鯛めし」が腹に入らないような事態を招くとしたら本末転倒なので、一応その盛り合わせのボリュームを確認してから私はその盛り合わせと生ビールをオーダーした。

大将がそのオーダーを聞いて早速仕事にとりかかった。まず大将がした事は、私に魚の好き嫌いがないかを確認する事だった。それから何か希望があれば言ってくれ、というので、私は「全部おまかせで」と答えた。さぁ、大将、これで出て来た造り盛りに対する私の満足度が低かったらもう言い訳は出来ないぜ?

大将が発散するオーラに対する根拠のない私の信頼と、それからちょっとした腕試しの意味を込めて私が大将に投じたボールを、大将はとても美しいフォームで静かにバックスクリーンへと打ち返した。女性店員が私の元に造り盛りを届けると同時に大将は近づいてきて、それらは全て「天然の地魚」である事を私に強調した。そして舟の形をした器に盛られた刺身のひとつひとつについて説明を始めた。鯛、オコゼ、鯵、鱧(はも)、甘エビ、生タコ、それから舳先に乗ってるのは四万十川の沢ガニ・・・。

ぶらりと立ち寄った一見客にいきなり鱧(はも)を出して来るというのも前代未聞だが、まぁ時間が時間だけにその日余ったやつを出してくれたのかもしれない。オコゼを刺身で頂くのは生まれて初めてだった。何とも言えない歯ごたえとジューシーな味わいに私は満足の微笑を浮かべた。舳先の沢ガニは大将の遊び心だろうが、自分の仕事に自信と余裕がなければわざわざそんな余計な事をする職人はいないだろう。その沢ガニも含めてツマも残さず皿の上のものをきれいに平らげた私は、いよいよこの店を訪問した第一の目的である「鯛めし」を注文した。

それから一五分も経たなかった頃だったと思うが、私は生涯で初めての「鯛めし」を口にする機会をこの店で得る事が出来た幸運を、心から神に感謝した。ボリュームのある歯ごたえ十分な鮮度のよい鯛と黄色く光輝く大玉の卵の上に、ほどよく甘ったるい濃厚なタレをぶっかけて薬味共々かき混ぜ、おもむろに箸で掻きこんだときの感動を私はいつまでも忘れない。その後、二件の「鯛飯屋」でそれを食ったが、この店の鯛飯は頭ひとつ抜けて美味だった。

そこでの食事に心から満足をした私は会計を済ませて店を出た。総額で四,八四〇円だった。私が暗算で弾き出したものより数百円高かったが、お通し代が乗せられたのと、造り盛りは最低価格での提供ではなかったのだろう。その値段であった事自体はかまわない。ただその辺の明細が自発的にきちんと提示されていれば、本当にどこにもケチのつけようのない完璧な店だった。
鮮魚旬菜 吉/地魚の刺身盛り合わせ(1) 鮮魚旬菜 吉/地魚の刺身盛り合わせ(2) 鮮魚旬菜 吉/地魚の刺身盛り合わせ(3)


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