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当日、トミーの駆るアウディにはしょこたんとヘイポーと私が乗り込み、残りのメンバーはドギーマン夫人の駆るプリウスによって現地に運搬される事になった。登山のいろはを心得ていて、午後の早い時間帯には下山を開始するくらいのスケジュールがちょうどいいと常々考えているトミーは、六時過ぎには私を含めた全員を拾い終えて戸倉のバス乗り場へと急ぎ、予定通り九時にはそこに到着した。晴れ渡った空から夏の日差しが照りつけてはいたが、都会のそれと違って時折吹く涼しい風が心地よく、何とも過ごしやすい夏の一日といった風情だった。

一方、それほど登山事情に精通していないドギーマン一家によって仕切られたプリウスが戸倉のバス乗り場に着いたのは一〇時過ぎの事だった。バス乗り場の掲示板に貼られていた親切な警告文によれば、その事は私たちが当初計画していたコースを歩くには、最終バスの発車時刻を考慮すると明らかに私たちに残された時間が不足している事を意味していた。仕方がないので私たちは山の鼻まで歩くのを諦め、鳩待峠から山頂をピストンする事にした。
 

ついでにもうひとつ、プリウスが一時間遅れで現地に到着するまでの間に何とあのいつも冷静沈着で山で起きたいかなる想定外の事態にも動じる事のないタフな男トミーが登山靴を自宅に置き忘れるというヘマをやらかした事実が発覚した。おいおい、トミー、君は一体何をしに四時間以上もかけてこんな上州の片田舎の山奥までやって来たんだい?

それがスニーカーか何かだったら、まだ事態はましな方だったかもしれなかったが、自宅からの道中、彼がアウディの運転席で履いていたのは事もあろうにツッカケだった。

私が自宅から履いて来たのはアウトドアサンダルだったのでツッカケよりはましだと踏んだんだろう。トミーは私のサンダルを借りたがった。そのサンダルは結構お気に入りのやつだったので、標高差七〇〇米を登り下りするそれなりに本格的なハイキングでそいつを履き潰されてしまうような事態は全く私の本意ではなかったが、大切な友人、トミーをツッカケ履きで山に登らせるわけにもいかない。私はトミーの靴ずれを心配するふりなどしながら、おとなしくそれをトミーに差し出した。
 

「隊長」とフィアンセ、ジャンキー共々遅れてやって来たドギーマンは全くハイキングの経験はないものの、毎晩のジョギングでそれなりの脚力を誇るタフガイだったが、彼の夫人は本当に運動経験がなかった。なので当初の予定では、ドギーマン夫妻は山の鼻まで私たちと同道してそこで私たちと別れ、尾瀬ヶ原の遊歩道を歩き回って美しい自然を満喫する事になっていた。

いざ、戸倉のバス停までやって来た夫人は、本人曰く今日のイベントが楽しみなあまり昨晩は一睡も出来なかったので、全員がハイキングから帰って来るまで車の中で寝る事にする、と言った。結果的に私たちは至仏山に登りたい残りのメンバーを戸倉まで運んでもらうためだけに夫人を駆り出したような格好になってしまった。
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