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月曜日に私たちのもとにひとつの悪いニュースがもたらされた。それは「隊長」がその前の土曜日に、ご丁寧にも「下見」をかねてフィアンセと二人で雲取山に一泊二日、山小屋泊の行程で登って来たのだが、午前九時頃に鴨沢ルートを登り始めた彼らはまもなく激しい疲労に襲われ、それは山頂を目指して歩き続ける彼らを最後まで苦しめ、ようやく彼らがふらふらになりながら山頂に着いた頃には既に夕方の四時半を過ぎていた、というものだった。

私は、あのまったく緩やかな登り坂しかないような登山ルートがなぜそんなに彼らを苦しめたのかが理解できなかった。私はその事を「隊長」に指摘したのだが、彼は「一泊する分いつもより荷物が多かったからだと思います」と力なく答えるばかりだった。

私はその答えには満足できなかった。

一泊分の荷物って何だ?パジャマと歯ブラシ以外にやつらは一体何を持ってったってんだ?私にはほかに理由があるように思われた。つまり、きっと彼らは「山小屋でそうすることはできない」というきわめて説得力のある理由で、前の日の夜に少しばかり激しく愛し合い過ぎてしまって、翌日山を登る分のスタミナをちゃんと残しておくという当たり前なことを怠ったのだろう。

私は「隊長」に問いただしたい気分に駆られたが、どうせ認めないだろうからやめておいた。
 


木曜日にテレビのニュースを見ていた私は、もうひとつの「まずい事」に気がついた。私たちの計画が実行される土曜日は、日本人が一年に一度、先祖の霊が天界から下界に降りてくるという迷信を口実に、一斉にバカンスを取る数日間のうちの一日と重複していた。その頃には生まれ故郷に帰る人々の車で毎年あちこちのハイウェイが渋滞する傾向があり、テレビのニュースは、今年も既にその渋滞の前兆が見られることを、テールランプが延々と列を成して輝くあのお決まりの映像付きで告げていた。

私たちの当初の計画は修正されなければならなくなった。私たちは緊急でミーティングを開く必要性に迫られた。そのミーティングが終わったのと、私がレンタカー屋に電話を入れて、当日は一時間前倒して朝の六時から車を借りられるよう手配したのが同時だった。それから日没前に下山できる事を優先するために、山頂でのランチタイムは省略して各自がいつもより多めの携行食を持参することが決定された。つまりこういうことだ。「飯なんて歩きながら食え!」
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