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食料を手に入れたのはいいが、行動中の水分がまだ確保出来てない。もっとも、そっちは適当に自動販売機でも見つけて手に入れればいいか、と考えた私は、相変わらず目的地を登山口に設定したカーナビの指示通りに車を走らせていたが、なぜかその県道沿いには目ぼしい自動販売機が一台も設置されてなかった。カーナビの指示通りに県道から折れて細い田舎道にと入ると状況はさらに悪くなった。

缶コーヒーだけを売ってる古びた自動販売機が一台あったが、真夏にハイキングをしていて喉が渇く度にまるまる一缶飲み干していたら缶が何本あっても足りやしない。百歩譲ってそいつがスポーツドリンクならまだ検討にも値しただろうが、コーヒーなんて論外だ。結局、お目当ての自動販売機は見つからないまま夏期休業中のスキー場に着いてしまった私は迷うことなく車を転回させて、さっき右折したばかりの県道からの入口までかっ飛ばした。
 

結局、私がその日、真夏の炎天下にハイキングを楽しむにあたって必要になると思われる、総量四リットルに及ぶスポーツドリンクとウーロン茶を入手することが出来たのは、右折地点よりさらに先へと行った県道の終点で合流した国道沿いにあった野菜市場だった。

穫れたての新鮮な野菜が手に入ることで人気を博していると思われるその市場で、思い思いの野菜を買いものカゴに入れてレジの前に並ぶ人々に混じってペットボトルを8本買うためにその列に並ぶ私は、周りから見ると、さぞ異様な客だったろう。だが私はそういうことには気づかないフリをして、小太りで四〇がらみの婦人の店員に金を渡して会計を済ませると、素知らぬ顔で店を出て車に乗り込んだ。
 

県道からさっきの田舎道へと舞い戻った私は、缶コーヒーの自動販売機の前を通り過ぎてスキー場へと急いだ。スキー場から登山口へは登山客のためだけに引かれたと思われる砂利道を延々と進まなければならなかった。どれくらい延々と、かと言えば、たぶん初めてそこを訪問したドライバーは例外なく誰もが途中で「こいつは道に迷っちまったに違いない」と引き返したい衝動に駆られずにはいられないほど、その砂利道は延々と続いた。

実際、どこまで行っても登山口が姿を現さないので私は本当に何度も引き返したくなったんだが、そうしなかった理由は、ただ単にその砂利道が細すぎてUターンすることが到底不可能だったからだ。
 
〇九四〇時にようやく登山口の駐車場に着くと、そこには既に八台ほどの車がとまっていた。さらに私が車を降りて着替えをしている間にも二台の車が到着した。

私と同じようにオカマのようなハイカー集団の前や後ろを歩くのはまっぴら御免だ、と考えるハイカーは少なくないようだったが、 それでもこの登山口を出発するハイカーはせいぜい一〇組かそこらしかいないってわけだ。私は狙い通り、それなりに静かな山歩きを堪能できそうなことに心から満足した。
安達太良山/沼尻登山口駐車場
後から来たうちの一台の車には二人組の若い男のハイカーが乗っていて、あっと言う間に準備をすませた彼らが、既に日が高く登ってしまっているのもおかまいなしにチンタラ着替えている私を尻目に登山口へと歩いて行くのが見えた。もっとも手元のガイドブックによれば、今回のコースはせいぜい標準所要時間も六時間足らずの短距離ハイキングだ。それほど急ぐこともないだろう。着替えが終わってから、さらにのんびり柔軟運動まで済ませた私は一〇〇〇時ちょうどに登山口を出発した。
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