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ひょんなことから至仏山での団体登山を楽しむことになった私だったが、標高差わずか六〇〇米あまりの往復登山はいかにも楽ちんで、そのハイキングはどう好意的に評価しても体力的にはまるで物足りないものだった。

もちろんそのことは前もって予想されたことでもあり、私はその翌日に一人で日光の男体山に登る計画を立てた。至仏山でのハイキングを無事に終えたあと、心優しい友人夫妻がプリウスで清滝の旅館まで私を送ってくれた。
 

なぜ私が男体山をターゲットとして選んだか、と言えば、それは至仏山から割と近いロケーションにあることが大きな理由だったが、その条件に該当する数多くの山の中でも、特に際立ってクールな凛々しいピラミッド型の山容が私の心を揺さぶったってわけだ。

そして登山口から山頂まで一二〇〇米を誇るというタフな標高差もまた魅力的だった。手持ちのガイドブックにも、要求される体力レベルはそれほど低くない、と言ったことが書かれてあったが、そんなルートを軽く日帰りで往復するというのは軟弱なハイカーには少々荷が重いかもしれないが、いつだって自分が「健脚者」であることを証明したくてうずうずしている私のようなハイカーには、うってつけなチャレンジだ、と私は思った。
 

ところで清滝という町、というか集落は観光や登山の拠点とするにはいささか不便なところだ。どれだけインターネットで検索しても、私が二荒山神社へ行くバスの止まるバス停に近いという理由でチョイスした小ぢんまりとした旅館の周囲にあって、かつ自他ともに認める美食家である私が夕食をとるのにふさわしい店を、ただの一軒すら発見することは出来なかった。

旅館へのチェックインを済ませた私は、早速、仕方なしの夕食を買い込むためにコンビニエンスストアを探しにふらりと出かけてみたが、たかがコンビニエンスストア一件の捜索は難航をきわめた。

おまけに至仏山のハイキングでそれなりに消耗した足腰に鞭打つ思いで大谷川沿いの国道までてくてく歩いてやっとの思いで一件のコンビニエンスストアを発見した私が、ようやく食料の調達に成功していざ旅館に帰ろうとしたまさにその時、前触れもなくいきなり雷とともに大粒の雨が降り出したので私は思わず怒りのうめき声をあげた。私はただ夕食にありつきたかっただけなのに、何だってこんな目に会わなきゃならないんだ!

地を引き裂かんばかりの雷鳴が轟くなか、持ち歩いていた小さな折り畳み傘で打ちつける雨を凌ぎながら急いで旅館に戻った私は、その日、私の身に起きた不遇な出来事に対してぶつくさと文句を言いながら、どこかの工場で大量生産されたのであろう、お世辞にも美味いとは言えない惣菜をつまみに缶ビールを飲んで、翌朝に備えてさっさと寝た。
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