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June 26, 2017 やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。 サッカー好きのギャルが「ロアッソ熊本」を応援したいというので、ゲーム仲間ら五人と誘い合わせて九州旅行へ。 試合は日曜日の夕方。主要メンバーらと協議した結果、出来上がったプランはこうだ。 毎朝、出水駅を出る「オレンジ食堂」なる観光列車に乗車して熊本へ移動するために金曜日には鹿児島入り。翌土曜日に「オレンジ食堂」で熊本入りし、熊本駅でレンタカーを借り受けて三角、天草方面を観光。 日曜日は阿蘇を観光してから「えがお健康スタジアム」とかいうふざけた名前のサッカー場に向かう。月曜日は熊本市内を観光。後ろ髪を引かれる思いのまま夕方のフライトで帰京する。 私は通勤ラッシュを避けてのんびり羽田へ向かい、昼前の便で鹿児島入りすることにしたが、ほかの連中は朝一番のフライトで鹿児島入りして市内を観光するという。 金曜の夜に出水駅前のホテルで合流し、夕食に向かったのは近くの焼肉屋「天山」。 すき焼きがオーダーできるというので楽しみにしていたら、アルバイトらしきウェイターが勝手に焼肉用の野菜を運んできたうえにコンロに火をつけ、もう準備を始めてしまったので焼肉しか出せないとかほざく。 メンバーの全員が「こいつ、あたま大丈夫か?」と思ったに違いないが、私を含め、愚かな若者の不手際を目の当たりにしても割と寛大に受け止めるだけの度量がある心優しい連中ばかりだ。私は心の中で舌打ちしながら、お望みどおり、まずは「特選黒毛和牛」のセットとやらを注文してみることにする。 おぉっ!何か立派なセットが出て来たぜ! ついさっき鹿児島観光ついでに「しろくま」を平らげて来たメンバーたちと違って、鹿児島空港から出水へ向かうバスのなかで昼食代わりにオニギリをひとつ口にしただけの私は腹ペコだ。肉の大半は私のものになるだろうと高を括っていたんだが、そいつは甘かった。 サッカー好きのギャルが連れて来た、今回の旅が私と初顔合わせとなる、私の正面の席に着いた見るからに大食漢然とした体型のギャルが、私が網の上で程よく肉を焼き上げる傍からひょいひょい箸でつまんで持ち去ってしまう。 私は焼肉屋における席割りの重要性を学習した。 二日目(土曜日)は〇七五〇時に「オレンジ食堂」が発車するというので、全員が〇六三〇時までには起床。 発車一五分前には出水駅に駆け込んだが、列車は既にホームに待機中。私がカメラを向けると、運転士は慌てて運転席に座り、ポーズをとってくれた。 定刻通りに発車した「オレンジ食堂」の車窓からは、曇り空で大してありがたくもない海の景色や、自然豊かな(言い換えれば、いかにも廃村すれすれといった風情の)人里が見える。ちなみに列車が水俣駅や日奈久温泉駅に停車している間は、駅周辺をブラブラ散策することも可能だ。 日奈久温泉駅の駅舎には、昔懐かしいツバメの巣。 種田山頭火の人形。 (私の)サングラス・バージョン。 「オレンジ食堂」、本日のメインディッシュ。 まぁ、美味いと言えば美味いんだけど、朝から食わなきゃならないボリュームか・・? 八代で「オレンジ食堂」を下車し、新幹線で熊本駅まで移動。レンタカーを借り受けて天草方面を目指す。 例のギャルが格安で手配したというレンタカーは、メンバーの予想に反して走行距離二万キロメートルあまりの極上ヴェルファイア。 まずは私のオーダーに基づいて「古亭ラーメン」へ。 三年前と寸分違わぬ美しい盛付けに心は踊るものの、朝一番からちょっとしたフルコース料理を食べさせられ、ちっとも腹が減ってない私たちには少々荷が重い・・・。 食事のあとは、雨が叩きつけ強風が吹きすさぶなか「イルカ鑑賞」のために下島へ。 このイベントは、例のサッカー好きのギャルのたっての願いで、私の知らないうちにツアー内容に盛り込まれていたようだ。船酔いのリスクを冒してまで、たかだかイルカを見るためにポンポン船に乗って沖へと出かけていくだけでもとんだ酔狂としか思えないのに、この風雨のなかを!? 正直なところ「荒天による出航中止」を期待していたんだが、奴らも商売だ。現地に着くと、店長が愛想笑いを浮かべながら「今日もイルカがたくさんいます」などと知りたくもない情報を口にして、半ば強制的に私たちを船へと連行する。 乗船した物好きは、私たち六人以外には女の二人組のみ。まぁ、思ったほど海は荒れてなかったうえに、そこらじゅうにイルカがうじゃうじゃいて他のメンバーは大喜びだったから良しとしよう。 夕食は、メンバーの一人の知り合いの店でいただくことに。このメンバーが数年前に熊本市内でオフィス勤務をしていた頃に通っていた店の主人が天草で開いた店らしい。 こいつはすげぇ。 馬刺し。 カワハギ。 天婦羅の盛り合わせ。 食事を終え、この日は阿蘇のゲストハウスまで移動して一泊。 三日目(日曜日)は阿蘇エリアの観光スポットを転々と移動する。 まずは噂の「あか牛丼」を堪能すべく「いまきん食堂」へ。 かつて熊本で働いていたため地元事情に詳しい例のメンバーに任せきりだったのでよくわからないが、この店は二、三時間待ちも当たり前という人気店で、受付役のウェイトレスに名前を告げると、だいたい何時間後にもう一度来いと時間を指定されるシステムのようだ。 ウェイトレスは四〇分ほどで戻って来いと言っていたようだが、それしきの時間では観光もできないし、そもそも私たち全員が四〇分後に昼食をとれるほど腹を空かしていない。交渉の末、阿蘇神社で二時間ほど時間を潰してから再訪。 いよいよ「あか牛丼」とご対面。 一六八〇円という強気な値段設定の割には、とりわけ肉質が素晴らしいわけでもなく、期待したほどの美味さでもない。 この店はテレビの番組で取り上げられて有名になったようだが、過去に食材の不正表示が発覚した経緯もある。つまり私が口にした肉が本当に「あか牛」なのかどうかすら、私には確証が持てないということだ。 昼食を終えた私たちは「大観峰」へ。 もともと週末は雨の予報で全く期待してなかったが、登ってみれば、まぁまぁの眺め。 続いて中岳へ。 現在、火口周辺は立入規制中。 草千里に引き返す。観光道沿いには乗馬体験用の馬。 馬の待機場には何かと問題になりそうなオブジェ。 えがお健康スタジアムのキックオフは一九〇〇時。 私以外のメンバーが総立ちで「ロアッソ熊本」を応援するなか、私は席に座って静かに観戦。なぜなら私は別に「ロアッソ熊本」のファンではないからだ。 結果はロアッソ熊本が、現時点で(二部)リーグ最下位の「レノファ山口FC」に完敗。 (私を除く)メンバーたちは口々に試合内容に関する不満をもらしつつ、あれこれ敗因を分析しながら、スタジアムから歩いて三〇分ほどのホテルを目指す。私も敗因に関する意見を求められたので「弱いからだ」と答えておいた。 試合を見ながら感じたことは、単純に二部リーグのゲームともなると、選手の動きにスピードもキレも感じられないし、胸のすくようなビッグプレーも期待できないということだ。 もちろん、仮にも二部リーグ所属とは言えプロのサッカー選手なのだから、彼らが敬意に値しない人々だということにはならない。そうは言っても、彼らとトップレベルのアスリートとの間には越えるに越えられない大きな壁がある印象は否めない。 ホテルに着いたのが二二〇〇時過ぎ。これから夕食に出かけなければならないのだが、私にとって今回のツアーの訪問先から絶対に外せないはずだった味千拉麺の本店は二二三〇時閉店で、もう間に合わない。 市内の馬刺屋にでも行きましょう、などととぼけた発言を繰り出すメンバーを黙殺してタブレットで検索すると、本店ではなく「菊陽バイパス店」というのがホテルから車で二〇分ほどの距離にあるうえ二三〇〇時まで営業しているという。 もうひとつの問題は、ホテルの大浴場も二三〇〇時に閉まってしまうことだ。協議の結果、ギャル二名は入浴を優先するというのでホテルに置き去りにし、男たち四人で「菊陽バイパス店」へと向かう。 ヴェルファイアのハンドルを握るのは私。一五分で「菊陽バイパス店」に到着し、一五分で食事を終え、一五分でホテルに舞い戻って大浴場に飛び込んだうえで、ホテルのスタッフに「さっさと風呂から出ろ」と怒られたらゴネる、という決死のプランを成功させるには、まず私がヴェルファイアのハンドルを握るしかない、という判断だ。 夜道は空いていることもあって、予定通り一五分で「菊陽バイパス店」に到着。 あぁ、何て懐かしい!この異臭を放つ工場の廃油を思わせる素晴らしい色合いのスープ。 お土産に化粧箱入りの一二食セットを購入して撤収、ホテルへと飛んで戻って大浴場へ。幸い、ホテルのスタッフは物分かりのいい人物ばかりで、少々時間が過ぎても見逃してくれた。 最終日(月曜日)は市内観光。 まずは震災の影響で未だに休業中の熊本城。近くの「湧々座」とかいう観光施設で寸劇など観賞してから二の丸広場へと向かう。 天守閣は復旧作業中。 昼食は「太平燕」を賞味すべく、例の熊本に詳しいメンバーがチョイスした上通(かみとおり)の「紅蘭亭」に向かうが改装中。店頭の貼り紙によれば、下通(しもとおり)に本店があるというので、そちらへ移動。 これが噂の「太平燕」。 初めて食ったんだが、何のことはない、麺の代わりに春雨を用いたチャンポンだ。 そしてついに発見した、九州地方の学校給食に採用されたことで知られる幻のローカル商品、「溶けないアイス」こと「ムース」。 例のサッカー好きのギャル曰く「九州のセブンイレブンで売られている」というもんだから、ここに辿り着くまでに一〇件超のセブンイレブンを探して回ったのに、どこにも置いてない。「まさか」とは思いながら試しにファミリーマートに入ってみたら、何のことはない、大量に売られているじゃないか!! ツアー最後の訪問先は、またぞろ例のギャルの希望で「くまモンスクエア」。 何でも小劇場のようなところで「くまモン」がダンスを披露してくれるんだそうだが、まぁ、私としては正直なところ、どうでもいい。帰りのフライトに遅れなければいいんだが、などと思案しながら現地に到着すると、間もなく始まるとか言うショー目当てに人々が殺到していて、既に入場規制が敷かれている。 諦めて空港に向かうのかと思ったら、例の熊本に詳しいメンバーが、作戦を変更して「くまモン」が入場してくるところを写真に撮ろう、などと言い出す。彼は「くまモン」がどこから入場し、どのルートを通って舞台へ向かうかを完璧に熟知していた。海外の映画祭なんかでセレブ女優をつけ狙うパパラッチ並みの執念だ。 そのメンバーによれば、「くまモン」は、入場ルート沿いに並ぶファンたち一人ひとりとハイタッチをしてくれるというのが、この場における暗黙の了解らしい。ほぉ、なかなか素晴らしいサービス精神じゃないか。 せっかくなので、私はさらに「くまモン」のサービス精神を満足させるべく、「くまモン」に固い握手を強要して私の前で一〇秒ほど足止めすることにする。 自分用の写真はいらないという詳しいメンバー氏にカメラを預けて粛々と実行。 周囲のひんしゅくなど意にも介さず、まるで心と心が通じ合うかのような固い握手を交わすことに成功した。 その後、フライトの時間が迫っている私たちは大雨のなかを熊本空港へと移動。各々が抑えた便でそれぞれ帰路に着いた。 何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。 以上だ。 |
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