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Feburuary 27, 2016


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

三年前の今頃、猛吹雪を前に逃げるように撤退した那須・茶臼岳に三年越しの再挑戦へ。


前回は、トミーに間違ったルートに誘導されたうえに吹雪でトレースが見る見る消えていく様子を目の当たりにして、登山口まで戻れなくなる恐怖を感じた「私の」主導で尻尾を巻いて逃走したわけだが、そんなのは今となってはただの笑い話だ。

偉大なるハイカー、トミーは、今やGPSという優れたデバイスを使いこなす道迷い知らずのハイカーだ。道迷いの心配さえないのなら、スタート地点から二時間ほどで着くとか言う茶臼岳の山頂など、気象条件が少しばかり悪くても私たちにとって容易くクリアされるべき踏破点ということになる。


あわよくば、夏山でのコースタイムが八時間ほどと言われる、大丸温泉を起点に茶臼岳に立ち寄ったあと、朝日岳から三本槍岳まで縦走する周回ルートも不可能ではないかもしれない。

私たちは〇七〇〇時に大丸温泉を出発する計画で合意した。


〇四〇〇時に私の自宅前に到着したトミーご自慢のRV車に乗り込んだ私は、午前中は天候に恵まれるという気象予報を根拠に、例の「周回ルート」が実現する可能性についてトミーに念押しをし、少々注意を要するとされる「剣が峰」のトラバースに関するレクチャをした。

私がインターネットで収集した情報によれば、夏山向けのコースが走るトラバースルートは、冬期には雪崩や滑落の危険があることから推奨されておらず、その一方で、雪が積もらなければとてもその上を歩くことは出来ないとされる「剣が峰」の山頂経由ルートを使うハイカーが一般的だ、とされているようだった。

ところで今年は例年に比べて著しく積雪量が少ないらしい。あれ?それって山頂経由のコースが使えないうえに、冬にはより危険とされるトラバースルートを通って行くしかないって事なんじゃないのか?


トミーの厚意によって助手席で仮眠しているうちに、トミーのRV車はハイウェイから下りて一件目のコンビニエンスストアの駐車場に滑り込んだようだった。私はトミーが買い物と用足しのために車の外に出てドアを閉めた「バタン」という音で目が覚めた。

たしか三年前に来たときは雪景色だった気がするが、今年はまるで雪が積もってない。三年前は路面が凍結していて、大丸温泉に着くまでに三台の車が路肩の溝にはまったり、ガードレールに突っ込んでいたりしたが、今年は平和なものだ。


車に戻って来たトミーが大丸温泉へと車を走らせているうちに、雪がちらちら降って来たが、全く大した雪じゃない。那須連峰の方を見やると、稜線をどんよりとした雲が覆っているのには閉口したが、気象予報によればじきに晴れるはずだ。


〇六四五時に大丸温泉の駐車場に到着。前回は猛吹雪にも関わらず、所せましと車が並んでいた記憶があるが、今回は一〇台かそこらってところだ。

まぁ、茶臼岳にしか登らないハイカーたちが、もっと遅い時間帯にやって来るのは不思議なことじゃない。


準備を済ませた私たちは、トミーのGPS情報と前回の記憶を頼りに、車道のゲート脇から〇七〇五時に出発。





実際には、トイレ右手の階段から行く方が近道だ。


何度か舗装道を渡らなければならないので、ひとまずメレルの上にフェルト底のオーバーシューだけを履いて出発したが、斜度のある雪道に差し掛かると、さすがにフェルト底では滑るので、途中で軽アイゼンを装着する。


何となく懐かしい感じのする笹薮を突っ切るように走るショートカット道を行く。





スタートからわずか二五分で、前回は何時間も歩いてようやく辿り着いたように感じられたロープウェイ駅を通過。





〇七五五時に、前回は雪に埋もれて潜れなかった鳥居を通過。





たぶん三年前に撤退を決断した辺りと思われる樹林帯を抜け、強風の通り道として知られる峰の茶屋跡が遥か遠くに見えて来る頃には、風も強くなって来た。





この辺では雪が積もる前に風で吹き飛ばされてしまうらしく、安山岩らしき茶色っぽい石屑の転がる道が凍結したまま剥き出しになっている。





偉大なるトミーが金にものを言わせて入手した高級な冬山用のブーツで颯爽と歩いて行くのを尻目に、私は路面の状況に応じて軽アイゼンを着けたり外したりしてもたつきながら進む。


前方右手には噂に聞く「剣が峰」が見える。ちょうど二人のハイカーが、冬期はヤバいと評判のトラバースルートにチャレンジしたのはいいが、途中で怖気づいたのか、とぼとぼと引き返している。

彼らは本日第一号のチャレンジャーだったようで、斜面には彼らの着けた下手くそなトレースしか見当たらない。その様子を見ていたトミーは、絶対にあんなところは歩きたくない、というような事を口にした。


私たちもちょっとしたトラバースが必要な地点に差し掛かったので、私は軽アイゼンをバックパックに仕舞ってセラックを着けることにし、トミーに行軍停止を要求したのだが、結論から言えば、その作業は強風域に足を踏み入れる前に済ませておくべきだった。

去年の五月以来、ほぼ一〇ヶ月ぶりにセラックを着ける私が着け方を忘れてしまっていた(オーバーシューの上からセラックを着ける私は、少々特殊な着け方をマスターする必要がある)ので、風が吹き付けてクソ寒いなかを一五分ほど立ち往生する羽目に。


〇九二〇時、ようやく峰の茶屋跡に到着。





三本槍岳まで足を延ばすためにも、茶臼岳の山頂に〇九〇〇時には着くはずだったが、やはり夏山のコースタイムはあてにならない。

噂に聞いていたとは言え、実際にこの身をもって体験した峰の茶屋の強風にムカついたことも手伝って、私はこの時点で、茶臼岳の山頂だけ踏んだらとっとと帰ろうと決意。


そうは言っても、前回は気温が氷点下一五度、風速二五米/秒なんて予報のなか作戦を強行したわけだが、今回の予報は氷点下一〇度、風速一五米/秒。

つまり、それなりの強風が吹き付けるとは言え、前回と比べれば天国と地獄ほどの差がある。青空にも恵まれて、なかなか楽しいハイキングだったじゃないか。


○九三〇時に峰の茶屋跡を出発。一〇分も歩くと、ちょうど茶臼岳の山体が風よけになるからか強風域を抜け、代わりに日当たりのいい無風ゾーンが現れる。

昼食はその辺でとればいいか、なんて事を考えながら噴火口周りまで登り詰め、反時計回りでお鉢を回って一○一○時に祠の祀られた茶臼岳山頂に到着。





三年越しでようやく辿り着いたことに加えて、周囲に広がる雪をかぶった美しい山々の眺めに私もトミーも歓声をあげずにはいられない。


三本槍岳と朝日岳。





三倉山、大倉山、流石山と続く稜線。





一時間以上かけて写真を撮りまくった私たちが山頂を後にしたのは一一二〇時。


例の無風地帯まで戻ってランチ。





カップラーメンのスープを飲み干したので、もうそれ以上水分はいらない、ときっぱり宣言するトミーを尻目に、私は食後のティータイムに紅茶をたしなむ代わりに汁粉などゆっくり啜って、一二四〇時に行動を再開。


茶臼岳を下っているときにも一組のハイカーが例のトラバースルートを朝日岳方面へと歩いて行くのが目に入ったのだが、どうやら私たちが午前中に目撃した第一号のチームではない別の優秀なハイカーが、その後トラバースに成功したらしく、終点までトレースが続いている。

そのタイミングでトミーには、時間がないので三本槍岳までは行かない、と宣言し、朝日岳を往復するだけなら可能かもしれないが、剣が峰越えのルートは恐らく使えないので、あのトラバースルートを行く必要があることを伝え、どうしたいか尋ねてみる。その後どうするかはトミー次第ってわけだ。


トミーは無謀なトラバースに挑む二人組を遠くに眺めながら「あんなところを歩くなんて全く冗談じゃないぜ」といった意味のコメントを残したが、既にトレースが着いてる以上、私たちも問題なくそこを通過できるだろう、というのが私の判断だ。

他の誰かがやり遂げたんなら私たちにも出来ないわけはない。そうだろ?


峰の茶屋まで戻ったトミーは、ひとまずトラバースルートの様子を見てみたい、と言ってそちらへと向かった。私は荷物を物陰にデポしてトミーの後ろをついて行くことにした。どうせ現物を確認したらトミーは「行く」と言うにきまってる。

果たして、実際にそのスタート地点に立ってみた偉大なるトミーはそこを行く決断をした。先頭は私が引き受けることにした。


先人の着けてくれたトレースを丁寧に辿りながら、一歩一歩進む。





とにかく足元を凝視し、既にそこにある足跡に集中して、そいつを丁寧になぞる事が重要だ。つまり、何があっても前方とか斜面の下は見るなってことだ。


私が無事にそこを渡り終えるか、あるいは滑落死する瞬間を写真に収めるというミッションを課されたトミーも、私が無事に渡り終えたのを確認してからトラバースルートに取っ付く。

山側の斜面が左手に来るのに合わせてピッケルをちゃんと左手に持ち替えて、一歩足を進めるごとにピッケルを斜面に突き直しながら慎重に渡って来るトミーの勇姿は、貫禄に溢れるベテラン・ハイカーそのものだ。

そこを渡り終えたトミーは、私が終始ピッケルを右手に持って遊ばせたままだったことに不満を表明したが、利き腕でもない左腕で器用にピッケルを使いこなせるスキルを持ち合わせてない私は静かに、ピッケルは足を滑らせてから使うものだ、と反論した。


そこから先は、基本的には岩山歩きだ。





それでも、ごく稀にトラバースや凍結箇所が現れるのでアイゼンを外すことは出来ない。





朝日岳の肩に一四〇〇時に到着。





休憩や撮影タイムを挟んで一四一五時に山頂に到着。





茶臼岳に登っただけで引き返さないでよかった。コースのバリエーションと言い、距離と言い、なかなか充実したハイキングが楽しめたってもんだ。


時間も時間なので、一〇分も山頂で過ごしたらすぐに引き返す。峰の茶屋跡に一五一〇時に帰還。

デポした荷物がちゃんとそこにあるのを見つけて安堵する。





強風が吹き付けるなか、トミーが最後の装備点検に勤しんでいる間、私は物陰で風を避けながら仮眠する。顔に当たる午後の陽射しが心地いい。

一五二五時、トミーの作業が終了し、峰の茶屋跡を出発。


鳥居を一六一〇時に通過して、一六三五時には駐車場に帰着。私たちの三年越しの再挑戦は、実に満足度の高い成果を伴って無事に終わった。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。



那須茶臼岳・朝日岳ハイキング/茶臼岳山頂にて



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