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November 23, 2014


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

今日の釣り場は防波堤でもメジナが釣れると噂の網代港だ。入門者用のウキ釣りセットと冷凍オキアミ、配合エサまでそろえて昨日のうちにはいつものメンバーと現地入り。


エサを撒くひしゃくを自宅に忘れて来たのに気付いて釣り場まで車で一〇分ほどの釣具屋でそいつを調達し、ついでに虫エサも購入して港へと向かう。

日曜日ってこともあるんだろうが、六時過ぎには現地に着いたってのに周辺の道路はほぼ釣り人のものと思われる車で埋め尽くされていて、釣り場から三〇〇米は離れたところにかろうじて空きスペースを見つけて駐車する。


右手から白灯堤防、中堤、新堤とある堤防の三本とも、すでに先端の方は私たちより早起きをした感心な釣り人たちによって占領されてしまっているようだ。仕方がないので駐車スペースに一番近い新堤の手前側に釣り座を構えることにする。そんなところに魚はいやしないって事だろうか、先端部の賑わいをよそにそのへんには二人しか釣り人がいなかった。

もっとも先端部を陣取ってる釣り人たちはカゴ釣りで回遊魚を狙っているようだが、こちとらメジナ狙いだ。勝算がまったくないわけでもないだろう。おまけに人がいないので場所は好きなだけ選び放題だ。


早速、夕べのうちに民宿の部屋の中にこっそり持ち込んで解凍しておいたオキアミブロックと、初めて目にするグレ(メジナ)用の配合エサをバケツに投入して撹拌作業を開始する。配合エサと言ったって釣りエサなんだから、冷凍アミとさして変わらないゲロのような物質を想像していたが、いざ袋を開けてバケツに流し込んでみると、見た目と言いサラサラした手触りと言い家畜用の飼料のようなイメージだ。へぇ、こんなものにメジナがよって来るのかね?

そいつを買った自宅近くの釣具屋の店員に言われたとおり、「オキアミのエキスが滲み出るように」オキアミをすり潰すようなイメージで飽きるまで撹拌してから海水をいくらか流し込むとひとまず撒きエサ(らしきもの)が完成する。完成品の方は私が当初イメージした通り「ゲロみたい」な姿になった。

私が試しにそいつをひしゃくで掬って海中に投入してみると、あっと言う間に周囲にいた小魚が殺到してそいつを貪り始めた。思惑通りメジナが釣れるかどうかはともかく、たしかに「集魚効果」とやらは侮れないようだ。


メンバーたちはいつものように「サビキ釣り」でアジか何かを狙うらしい。気前のいい私は、とてもじゃないが私が一日で使い切ることができるとは思えない私の作った撒き餌を彼らに一部進呈することにした。配合エサがキロ単位でしか売られてない以上、そいつは私にとって仕方のないことではあったが、もっとも私自身、サビキ釣りに配合エサを流用したら周りの釣り人よりも釣れるのではないか、という自分の仮説を一日がかりで彼らに検証させていたのはここだけの話だ。


ところで根性のない私は、朝方のゴールデンタイムということで、未経験のウキ釣り仕掛けではなく、まずは実績のあるちょい投げ仕掛けで作戦を開始する。手始めに虫エサで底を狙ってちょっと沖の方まで投げてやれば、例えばカワハギとかメバルとかカサゴとか、釣れると何だか楽しい魚がいっぱいかかって来てもよさそうなもんじゃないか。

足元からの距離、五米から一〇米の範囲に特製のメジナ向けスペシャルブレンドを撒いて魚たちをおびき寄せ、それらがほどよく海水に馴染んだ頃合いを見計らってその先に仕掛けを投入してから手前にさびく。

三投目でかかったのはネンブツダイ。釣り上げるや否や針を外して海へとお帰り頂き再チャレンジだ。魚さえ釣れれば喜んでいたあの頃の私はもういない。


次もネンブツダイ、その次もネンブツダイだった。メンバーたちの針にかかるのもことごとくネンブツダイ。至近距離にはネンブツダイしか生息していない事が判明したので作戦変更だ。

撒き餌をやめ、三〇米ほど飛ばして海底をずる引きしてみる。いいぞ、一発でヒットだ。今度こそ気分が楽しくなるような魚に違いない、と心を躍らせながら釣り上げてみると海面から姿を現したのはベラ。とても嫌なことを思い出しながら、もちろん海に追い返す。


往生際の悪い私は再び三〇米ほど飛ばして、今度は試しに気持ち表層を引いて来る。また一発でかかったと思ったら今度はトウゴロウイワシ。さぁ、海にお戻り。


それまで中堤を正面に見ながら新堤北側で釣っていた私は、試しに誰も釣り糸なんて垂れてやしない反対側にも仕掛けを投げ込んでみる。するとあろうことか一投目で根掛かりしやがった!ほぼネンブツダイしか釣ってないってのに早くも仕掛けを一式失う羽目になるとは・・・。網代港、なかなか手怖い。


道具箱を覗いてみるが、ちょい投げに使えそうな仕掛けは何もない。さっきの釣具屋で少しは買い込んでおけばよかったと後悔しながら近所に釣具屋はないかと小便ついでにそのへんをぶらついてみると、ロックアイスを売っていると貼り紙をしてある酒屋を発見。あぁ、そういえば氷を買うのも忘れちまってたぜ!


ガラガラと引き戸を開けて店に入ると店の奥から私好みの中年増が姿を現した。私は氷を買いついでに近くに釣具屋はないか尋ねてみた。

キュートなうえにとても親切なそのご婦人は、丁寧に釣具屋の場所を教えてくれ、「今日は日曜日だからきっともう店を開けてるわ」と言った。私は礼を言って問題の釣具屋の前まで行ってみたが、営業してるのかどうか外から見ただけでは分からないうえに何だか陰気な雰囲気の店だったので、そのまま素通りした。


釣り場に戻った私は氷をクーラーボックスに放り込んでから思案を巡らし、ちょっと早いような気もしたが、今日のために自宅近くの釣具屋で買い求めた入門者向けのウキ釣りセットと、以前、大洗で入手し、今回「ウキ釣り」用にと持参した五.三米の磯竿を取り出し、人生初の「ウキ釣り」にチャレンジしてみることにした。


いかにも子供だましな雰囲気の漂う「ウキ釣り超入門セット」。





だが見た目の軟弱さはともかく、こいつはダミーの糸にウキ止め、しもり玉、ウキ、クッション、ガン玉と通してあって、その先のサルカンには極小ガン玉と針が既にセットされたハリスが結びつけてあり、ウキ止めからガン玉までを並び順に通してからミチ糸をサルカンに結びつけさえすれば半遊動のウキ釣り仕掛けがあっと言う間に完成するという、本当に夢のような入門者用セットだ。

いざ、そいつを完成させみて、ガイドブックで勉強している分には何だかいろいろパーツがあって面倒に見えるウキ釣り仕掛けも、実際に作ってみればバカみたいに単純な仕組みだってことを私は学んだ。何事も習うより慣れろ、だな。


北向きの釣り座に戻ってスペシャルブレンドを足元から五米ほどの位置に撒く。例によって小魚が殺到する。あまり表層を探ってもネンブツダイしか釣れないに決まってる、と考えた私は、ウキ止めをずらしてウキ下が二.五米ほどになるように調整し、おもむろにスペシャルブレンドが拡散するゾーンの真ん中に、華麗なまでのコントロールで仕掛けを投入した。実際にはかなり投入点がずれていた気もするが、まぁ竿とリールをうまく操縦して帳尻を合わせることくらいわけない事だ。


当日の網代港の海水はあまりに澄んでいたので、仕掛けに魚がかかった様子が上から丸見えだった分、少々感動が薄れてしまったのは否めないものの、ピクピクッと動いたかと思うとそのまま海中にウキが引き込まれたのを見た私はウキ釣りの醍醐味を垣間見た思いがした。今までは手先の感覚でしか捕えることの出来なかった「獲物がかかった」という素敵な情報を、目だけで捕えることができるようになったってことだ。たとえ相手があの親愛なるネンブツダイ諸君であっても。


ウキ釣りでも魚を釣り上げることに成功した私は、またひとつ釣り人としてのステップアップを果たしたことに心から満足した。だが相変わらず釣れるのはネンブツダイばかりだ。もう何匹ネンブツダイを釣ったかなんて覚えてられないほどひたすらネンブツダイを釣り上げて冗談抜きにそろそろ家に帰りたくなった頃、私の左隣に寡黙な青年が一人でやって来てウキ仕掛けを垂らすと、あっと言う間に一〇センチかそこらの小メジナを釣り上げた!げー?やっぱりメジナはいるじゃないか!


私はもう一度この作戦に真剣に取り組むことにした。撒きエサに仕掛けを同調させることはあらゆる教科書に書かれている基本中の基本事項だろうが、一部の教科書には、まずネンブツダイ(と名指しでは書いてなかったが)をおびき寄せるために撒きエサを撒き、そこから少し離れたところに仕掛けを投入して本命の獲物を狙う、というちょっとした応用技術に関する記載があった。よし、そいつをやってみよう。


まず撒きエサを撒いてネンブツダイをかき集め、奴らが夢中になってる間に少し離れたポイントに仕掛けを投入して、少しずつネンブツダイの集団の方へと寄せていく。早速、魚がかかる。もちろんネンブツダイだ。よし、もう一度だ。時間はたっぷりある。何度でもやってやるぜ!

慣れた手つきで丁寧に針から外したネンブツダイをやさしく海へと投げ捨て、もう一度同じ手順を繰り返してみると、突然、私の竿が明らかにネンブツダイにはおよそ絞り出せないような驚異的なパワーで海面の方へと引き込まれたので、私は唖然とした。ワーオ!この懐かしい引き味はひょっとして・・・?


竿を立ててしならせながらゆっくりとリールを巻いてそいつを海面から抜きあげた私は思わず歓声をあげた。ひょー、何か月かぶりにお前に会えたぜ!とか何とか。それだと初めて釣り上げた超入門者よりちょっとだけキャリアのある釣り人に見えるだろう?しかも隣の青年が釣り上げたのより私の方が少しだけ大きそうだ。

何度も道に迷いながらわざわざ五時間もかけてこんな辺鄙な漁村まで足を延ばした甲斐があったってもんだぜ!やはり何度釣っても(まだたった二度目だが)メジナの釣り味は何とも小気味いい。


程なくしてメンバーの一人もサビキ仕掛けで小さなメジナを釣り上げたので、この釣り場には必ずしもネンブツダイばかりではなく、それなりの数のメジナもまた存在することが明らかになった。

暫くして、その後が続かない事にしびれを切らした私は南側の海面にも撒きエサを撒いてみた。相変わらず群がって来るのは専らネンブツダイか四角いフグだが、どうもメジナのような形をした魚の姿もちらほら見える。誰も釣り糸を垂れてないこっち側こそ、実は素敵なお魚がいっぱい隠れてる偉大なる穴場なんじゃないのか?


私は南側に釣り座を構えなおすことにした。こっち側はほぼ独り占めだ。暫くはネンブツダイを釣っては海に帰すことの繰り返しだったが、辛抱強く同じ手順を繰り返してるうちに徐々にメジナがかかるようになって来た。ひゃー、ウキ釣りって何て楽しい釣りなんだ!


一六時に納竿するまでに釣り上げた六尾のメジナ。ふーむ、初めてのウキ釣りにしては上出来だ。





一番の大物は一九センチメートル。私のペニスよりデカいだけあって引きの力が全く違うぜ!





ところで私のこさえたグレ(メジナ)用配合エサ入りスペシャルブレンドでサビキ釣りに励んだ二人の釣果は、必ずしも芳しいものではなかった。つまり、彼らはネンブツダイを釣っては海に帰す作業にほぼ丸一日を費やす羽目になった。やはりメジナ狙いならウキ釣りに分があるということを私はこっそり学習した。


メンバー二人はともかく私は上機嫌で網代港を後にしたが、帰り道の渋滞はまったくひどいもので、東京に帰り着くまで六時間もかかったうえに、ハイウェイでは覆面パトカーに追いかけられて降りて来た警官に速度違反の切符まで切られてしまった。とても素敵な釣り場ではあったが、私が釣りのためにはるばる網代港まで出かけるようなことは、もう二度とないだろう。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。




November 08, 2014


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

事もあろうにトミーとヤギ男、二人そろって風邪をひくという失態のおかげで九月に予定されていながら延期になっていた彼らとの谷川岳ハイキングを、いよいよ決行するときが来た。


もちろん楽をしてロープウェーで途中まで運んでもらおうなんてオカマのような連中の辿る軟弱なルートはなしだ。「日本三大急登」のひとつに数えられるとも言う西黒尾根から山頂を目指し、帰路は巌剛新道を下る。ガイドブック記載の標準所要時間は七時間三〇分。「三大急登」がどれほどのものなのかは分からないが、コースタイムだけを見ればさほどハードなルートとも思えない。


〇四時一五分に私の自宅までご自慢のアウディで迎えに来てくれたトミーはそのままヤギ男との待ち合わせ場所となる埼玉県内のとある駅まで向かう。現地の立体駐車場には〇七時一〇分に到着。薄暗い空間に奇妙な音楽の流れる何だか薄気味悪い駐車場だった。


準備を済ませて〇七時四〇分に行動開始。駐車場では何組かのハイカーを見かけたが、みんなロープウェー乗り場の方に行ってしまった。私たちは誰もいない舗装道路を歩いて登山口を目指す。


見上げると澄み切った青空に薄く色づいた紅葉。





いいねぇ、やっぱり秋山のハイキングはこうでなくっちゃな。


〇七時五五分、「西黒尾根登山口」に到着。少し手前で見かけた先行者二人は驚くほど俊足で、一度見失ったきり二度と見かけることはなかった。





さぁ、いよいよ出発だ。


「日本三大急登」とされる西黒尾根コースだが、登ってみれば樹林帯の中を里山に毛が生えたようなありきたりの登山道が延々と続く。私はいつものように気が向くたびに屁をしながら最後尾をちんたら登る。


一時間半ほどで南側の視界が開けて来た。ロープウェーの駅舎が見える。





〇九時四五分に最初の鎖場に到達。登り切ると稜線に出る。


眼前に何とも無骨な山頂が迫る。





さらに二〇分も歩くと「ラクダの背」。





その先のちょっとした小広場で休憩。見るとペットボトルに茶色い液体がほぼ満タンの状態で入ってるのが石の上に放置されている。ラベルが剥されているので中味が何なのかは推測するしかないが、お茶のようにも見えるし何かの揮発性の油のようにも見える。

ヤギ男に「飲んでみるかい?」と勧めたら、ヤギ男はひどく顔をしかめた。


一一時〇〇分にあの有名なスポットに到着。慣例に則って記念撮影。





ここを通過するハイカーは一人残らずこいつをやるもんだとばかり思っていたが、何組かのハイカーが撮影に励む私たちを横目で見ながらニヤニヤ顔で通り過ぎて行った。


一一時四五分に大勢のハイカーたちで賑わうトマの耳に到着。そのまま素通りして多少は人気の少ないオキの耳へと向かう。

少々雪の積もった歩きにくい稜線を一五分ほど辿ってオキの耳に辿り着いた私たちは、その少し先の西風を避けるのにちょうどいい岩場で昼食にする。


私はいつも通りの「熊本ラーメン」。





風が強いうえに上空には雲が漂い始めたが、目の前に広がる朝日岳の均整のとれた山容や川棚ノ頭に至る美しい稜線を飽きるまで眺めてたっぷり一時間ほどそこで過ごした私たちは、トマの耳に群がっていたハイカーたちが下山して姿を消したのを確認してからその場を後にし、邪魔者のいないトマの耳での記念撮影を無事に終えて帰路に着く。

まずは放尿のために肩ノ小屋に立ち寄ることに。


わざわざ回り道をした私たちを待ち受けていた厳しい現実。





まぁ、どうせ私たちと同じコースを下って行くハイカーなんていやしないんだから、我慢が出来なくなっちまったらその時はその時だ。


一三時三〇分に肩ノ小屋前を出発。往路では巌剛新道との分岐を見つけることが出来なかった私たちは、今度こそ分岐を見落とさないように周辺を慎重にスキャンしながら稜線を下る。


氷河跡あたりで前方から一〇歳くらいの少年を連れた父親らしき男が山道を登って来るのを見つけた私たちは閉口した。こんな時間にまだそんなところをうろついてる事実もさることながら、まだ年端も行かない子供にあの西黒尾根を登らせたって言うのか?

私たちがその実力に応じてそいつをどう評価するかはともかく、西黒尾根ルートは高度差もあれば岩稜歩きや鎖場の通過も強いられる「それなりの」ルートだ。少なくとも私には、明らかに少年は迷惑そうな顔をしながら父親の後ろを歩いているように見えた。

私が少年に声援を送ると少年は礼儀正しくそれに応えたが、その表情は決して楽しそうには見えなかった。その親子を見送った私たちは、少年の健闘と不屈の闘志を称えるとともに、父親のルート選択のセンスには疑問を抱いた。誰とどのようにして休日を過ごすにせよ、自分が楽しめる場所が相手も楽しめる場所だとは限らない。


まったく私もどこかのキュートな山ガールと仲良くなって一緒にハイキングに出かけるときは、どんなコースに出かけるかは慎重に選ばなきゃな。


少年の幸運を祈りつつ尾根道を下る。例の小広場に着くと、まだそのまま放置されてるペットボトル。





もう一度ヤギ男に勧めてみたが、答えは変わらない。


少しばかりの休憩を挟んでから、その中味が気になって仕方がないペットボトルに分かれを告げてさらに山道を下る。やがて数百米前方に、私たちが往路に辿った稜線上の道とは明らかにちがう、左手の谷側の斜面につけられた巻き道を登って来る二人組を見つけた私たちは、彼らが辿っている道こそが巌剛新道である事を確信した。その二人組が稜線に合流する地点こそ私たちが探していた新道への分岐ってわけだ。


トミーがひと足先に下って分岐点まで行き、その二人組にコンタクトを図って情報収集を試みる。後から追いついた私が見たところ、二人組はたぶんまだ二〇歳にも満たない若者たちで、装備の真新しさから推測するかぎり、さほど経験豊富なハイカーではないようだ。彼らはトミーのインタビューに対して、巌剛新道は一部の岩場が「凍結している」と答えたらしい。

トミーはその情報に少々不安を覚えたようだ。たしかに、主に太陽と地球の位置関係に起因する諸々の自然現象の結果として、北側の斜面はそうでない斜面よりも凍結するもんだ、と太古の昔から決まっている。トミーは帰りのコースを変更することを検討してもいい、という意見のようだ。


私の結論はノーだった。そのコースに凍結している岩場があるかどうかは大した問題じゃない。考慮すべきことは、その若者二人が登って来ることの出来た道をこの私たちが下って行くことが出来ないなんて事があり得るのかってことだ。そうだろ?


ところで分岐点の案内板は、山頂方向から下って来るハイカーにしか見えない向きに設置されていた。よほどのうっかり者でない限り、往路で見つけられなかったからって帰路でこいつを見落とすようなことはないだろう。





私たちがその案内板の前でのんびり休憩していると、山頂方向から一人の五〇年配のハイカーが素早い足取りで下りて来て、私たちに「これを上に忘れて来なかったか?」と言って、例の謎の液体の入ったペットボトルを差し出した。何てことだ!その親切なハイカー氏は、わざわざ私たちのためにゴミを拾って峻険な山道を急いで私たちを追いかけて来たらしい。

その状況で「それはゴミだ」とはさすがの私にも言いづらい。そいつは他の誰かが置き忘れたものらしくて、私たちが朝方あの広場を登りで通過したときからそこにあったのだ、という事実を丁寧に説明し、それから何だか申し訳ないような気分になった私は、とりあえず親切なハイカー氏に謝っておくことにした。

別に私たちは何も悪い事なんてしてやしない。ただそいつは結果論に過ぎないとは言え、その親切なハイカー氏は山のゴミをひとつ拾って、私たちは見て見ぬふりをした。その気の利かなさに対するお詫びだと思えば、そうおかしな事ではないだろう。それで多少はその親切なミスターの顔も立つなら何よりじゃないか。


一四時三〇分に分岐点を出発、巌剛新道へと進入する。西黒尾根コースほど使われてないと見えて、少々コースが荒れている印象はあるものの、要所はそれなりに整備されていて道迷いの心配はない。コース中にところどころ崩落箇所があるが、そういうところには怖がりのハイカー用に気を利かせてロープが引いてある。





その日、巌剛新道で見かけたハイカーは一人しかいなかった。肩ノ小屋のトイレが使えずに困っていた私にとってはまったくもって良いニュースだ。


そしてコース上では若者二人の証言通り、一部の岩に少しばかり付着した水分が「凍結」していた。だから何だってんだ?「凍結」の定義が私たちのそれとはあまりに違い過ぎた。若者たちには全く悪気なんてなかっただろう。だが何事も情報は正確に伝えないと、ときには陰で「嘘つき」呼ばわりされてしまう事だってある。


一六時二〇分、登山口となる「マチガ沢出合」に到着。すぐ目の前にベンチの置かれた休憩所があって、私たちはたっぷり一五分ほどそこで休憩。


振り返ると、完全に雲に覆われてしまった山頂。





そこから舗装された車道を二〇分ほど歩いて駐車場に到着した私たちは大急ぎで着替えを済ませ、冷え切った身体をどうにかするために近場の温泉へと直行した。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。



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