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October 19, 2013


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

今日は岩木山にハイキングに出かける事にする。手元のガイドブックによれば岩木山神社から山頂までの登り所要時間が四時間四〇分、下りが三時間一五分、往復でほぼ八時間とある。休憩その他まで考慮すると一〇時間程度は行動時間を確保しておく必要があるだろう。

大崩山のハイキングで散々な目にあった私はまじめに早起きして七時には岩木山神社を出発できるよう六時半にはホテルを出発した。


カーナビを睨みながら車を走らせていた私はふと車窓から見える岩木山を見て愕然とした。あれ!?山頂付近は雪で真っ白じゃないか!





紅葉など堪能するつもりで呑気な計画を立てていた私は全くの軽装しか準備していない。あれじゃ山頂まで行けないかもしれない。とんでもない事だ!


結局、神社の駐車場に到着したのは七時過ぎ。一般の観光客は何人かいるようだがハイカーは私一人のようだ。根性のないハイカーのなかにはスカイラインを走るバスで八合目まで登ってしまうようなのもいると聞く。そんなの山登りでも何でもないじゃないか。

着替えや小便を済ませて大きな鳥居をくぐった頃には既に予定の七時をニ五分も過ぎていた。鳥居からかろうじて見えるやっぱり雪の積もった山頂。





岩木山神社の境内まで階段を上がって左にそれ、砂利道を一五分ほど歩き、車道を跨いで芝生敷きの公園を突っ切る遊歩道を五分ほど歩くとスキー場のレストハウスにたどり着く。標柱の案内に従って従業員の通用口みたいなところを遠慮なくくぐり抜ける。





レストハウスを抜けると悠然とした岩木山の山容が一望できる。





砂利道を直進し、途中で左に折れて林の中に入るとまもなく登山口が現れる。八時ちょうどに到着。





そこからしばらくは本当につまらない山道歩きだ。

すぐに「七曲」の標柱が現れる。





つまらない、つまらない、と文句をたれながら登って行くと、三〇分ほどで「鼻コクリ」の標柱。





「鼻をこするほど」急な坂なので鼻コクリと言うらしいが、まるで口ほどにもないと言うか、その坂が「鼻コクリ」なんだったら世界中のエスカレーターが「鼻コクリ」だ。


その先で道の上にスズメバチを発見。しばらく睨み合ったが弱ってるのか何なのかまるで飛び立つ気配がない。

珍しいので記念にアップで撮影。





いつも私の快適なハイキングの邪魔をする憎たらしいやつなので踏み潰してやろうかと思ったが、別にこいつにハイキングの邪魔をされたわけではないので許してやる事にする。


「鼻コクリ」から三〇分ほどで「姥石」。女人禁制時代の名残だ。





男向けの登山道はちょっと険しい。





溶け残った雪が地面に散見されるようになった頃に「焼止りヒュッテ」に到着。時刻は〇九時四〇分。

夏山装備のハイカーは帰れ、と言わんばかりに立派な雪ダルマが置いてある。





ここまでの標準コースタイムが二時間四〇分。七時ちょうどに出発する予定だったから遅れは取り戻したって事だ。気分をよくして暫く休憩。

これまでは展望もクソもなくてちっとも面白くない山道歩きだったが、ヒュッテ前の眺めはなかなかだ。





そこから先は手元のガイドブックによれば百沢コースの「核心部」とされる大沢だ。

足元の悪い枯れた沢を登り詰めていく。





先人の踏み跡を頼りに滝になってる箇所は迂回しながら沢道を登る。

普段は枯れ滝らしいが、雪解け水が落ちて来る。





前半戦でそのコースのつまらなさにずっと文句をタれていた私を岩木山の神様はお見過ごしにはならなかった。

「大沢」はただでさえ険しいガレ道なのに、溶けた雪で岩が濡れて滑るので私は極度の神経戦を強いられた。何もヒントがなければどこをどう行けば安全なのか見当もつかないので、先人の踏み跡がなかったら私は諦めて帰っていたかもしれない位だ。





そして偉大なる先人の踏み跡を辿っているうちに、それは笹薮のトンネルの中を流れる沢そのものへと続いていたので、私は一度はそのトンネルへと進入しておきながら全く信じられない思いで、それが本当に正解である事を確かめるために引き返す事にした。

そのとき私はいつものように「信じられない!」「クレイジーだぜ!」と罵り声をあげながら引き返していたので、いつの間にか私に追いついていた後続のハイカーとトンネルの入り口で鉢合わせたときに恥ずかしい思いをした。





私がそのベテランの風格漂う初老のハイカーに、どうもこの足元を水の流れるトンネルをくぐって行かなければならないようだが、そいつは正しい道なんだろうか、と意見を求めると、彼は事もなげに「そうでしょう」と言ってすたすたと行ってしまった。

私はその回答にうんざりしたが、そのハイカーは頼もしく見えたので、彼と同じルートを歩いて行けばいいという事実に安堵感を覚えた。


私がトンネル手前で少しばかり休憩しているわずかなうちに、その野ウサギばりに俊敏な初老のハイカーは姿が見えなくなってしまったが、立派な踏み跡を残して行ってくれたので、私はそれをただ追跡した。


完全に「雪山」と化したコース上に続く立派な踏み跡。





そうは言っても踏み跡を辿って登っていくうちに、雪山用の装備を何も持たないで帰りにこの道を下って行くのはどうにも無謀な行為のような気がして来た。たしか八合目にバス停があったな。帰りはそっちに逃げようか。

そんな事を考えながら登っていたとき、澄み切った青空をバックに一人で下って来るハイカーを見つけて私は仰天した。ストックこそ持ってはいるが、その他は私の装備と大差ないじゃないか!


彼がいよいよ私とすれ違うとき、私は、本当にこの道を下って行く気か?と彼に尋ねた。私と同年代と思しきその爽やかなハイカーは笑いながら、そうだ、と答えた。ひゃー、何ともイカれたハイカーだぜ!

私は「そいつはすげぇ!」という思いを表す精一杯の反応をして見せて彼を見送った。何だよ、それじゃぁバス停の方に逃げちまったら私はまるでオカマみたいじゃないか。


一一時ちょうどに「種蒔苗代」に到着。完全に凍結している。





私は汗かきなのでタンクトップ姿でここまで登って来たが、雪山をバックにその格好で写真に写ったらいい記念になるじゃないか、と思い、荷物を下ろして三脚をセットしていると何組かの後続ハイカーが姿を現した。どうも神社前のバス停から登り始めた同じバスの連中らしい。

先頭を歩いていた若いソロのハイカーが私に声をかけて来たので、私は、まったく忌々しい雪だ、と言った。すると彼は火でもついたかのように彼がいかに苦労をしてここまで辿り着いたかを一気にまくし立てた。何でも東京からやって来た彼は、その日どうしても山に登りたくて、天気のよくない関東地方の山に見切りをつけて急遽、青森まで駆けつけたらしい。


私は、彼が随分と熱心なハイカーである事に敬意を覚えたが、彼は私に伝えたい事が多すぎて、それをずっと聞いていたタンクトップ姿の私は身体が芯から冷えてしまった。彼は実に三〇分ほど私に色んな話をしてから「では失礼」といった感じで先に行ってしまった。私は写真を撮る気力もなくして呆然とした。


タンクトップ姿を諦めて上に一枚着込んで山頂を目指す。避難小屋(鳳鳴ヒュッテ)の前でスカイラインを八合目までバスで登って来た連中が合流した。ほとんどはスニーカーとかローヒールなんかを履いた観光客くずれのような連中だった。彼らに前を歩かれるという事は私にとってハイウェイを自転車で横並びになって走られるようなものだった。そして普通のときでさえ邪魔な彼らが歩いているのは雪が積もった山道だった。


たぶんそいつらのせいでかなり時間をロスしているはずだが、一一時五〇分、山頂に到着。





雪に覆われた山頂は大勢の人々で賑わっていた。三〇人はいたと思うが私と同じコースを辿って来たハイカーは一〇人もいなかったろう。

腰を下ろすのによさげな所は全て先客に占領されていたが、一段小高く岩が積み重なった所の雪には足跡ひとつついてない。私が慎重に足元を探りながらその小高い岩場の一番快適な所まで歩を進めて陣取ると、これ幸いと何人もの見知らぬ連中がその足跡に続いて岩場に侵入して来た。


ここは私が一番始めに見つけた休憩スポットだぜ、って態度で、やつらの撮影の邪魔になろうがまるでお構いなしに、私は三脚をセットして思う存分に記念撮影。





澄み切った青空の下には右手の下北半島はおろか、遠く北海道の山並みまで見渡せる。こんな素晴らしい展望に恵まれたのは初めてだと言ってもいいくらいだ。

私は昼食や撮影がてら山頂で一時間以上ものんびり過ごしてからようやく重い腰をあげて下山にとりかかる事にした。


山頂直下の急坂は登りではそう気を使う必要はなかったが、そこを下って行くのはなかなか骨の折れる作業だった。アイゼンとまでは言わずせめてストックだけでもあれば少しは違ったかもしれなかったが、今さらそんな事を言っても遅い。

私はバランスをとりながら出来るだけ慎重にそろそろと下って行ったが、途中で思い切り足を滑らせ、身を反転してうつぶせの姿勢で雪を掴もうとしたとき、一番初めに着地した右手の親指一本で一瞬だけほぼ全ての体重を支える羽目になった。私の親指は通常とは反対の方向にぐにゃりと曲がった。こいつはマジで痛い!


今日から暫く右手では何も掴めない気がしながら避難小屋(鳳鳴ヒュッテ)前、種蒔苗代と通り過ぎ、一人の山ガールがこんな時間によたよた虫の息で登って来るのを見つけて全く信じられない思いで彼女を見送ってから先を急ぐ。

下りは常にいい眺めだが、足元が心配でそれどころじゃない。





登りでは気づかなかった錫杖清水(しゃくじょうしみず)。

真夏だったら早速にでも顔を洗って生き返った心地を味わうところだが今日はちっともありがたみがない。





行きでは積もっていた雪が日に当たってどんどん溶けてしまったんだろう、帰りは本当に川の中を歩いているようなものだった。

飛び石伝いにぴょんぴょん行って足を滑らせるくらいだったら私は堂々と水の中を歩く。





一四時三〇分に焼止りヒュッテに到着。相変わらずなかなかの眺めだ。





後はひたすら例の「つまらない」山道を下る。一五時四〇分に登山口に到着。

スキー場まで歩いて振り返ると、明らかに朝方よりも雪は溶けてしまっていた。





そして一六時ちょうどに神社前の駐車場に到着して私の岩木山ハイキングは終わった。


いつもならささっと車の中で着替えてしまうところだが、神社への参拝客の車が溢れている駐車場でそれをやるのも気が引けるので、私はたぶん車なんて殆ど停まってないスキー場の駐車場まで移動することにした。

駐車場から車道に出てふとバス停を見ると、例の東京から駆けつけたとても熱心なハイカー氏がバスを待っていた。私は今度は彼に見つからないようにそそくさとその場を後にした。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。
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