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September 21, 2013


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

昨日、九州に於ける初めてのハイキングで散々な目にあった私がホテルに戻ってインターネット上の気象情報のサイトにアクセスすると、今日の予報がそれまでより少しばかりいい方向に変わっていた。あれこれ考えた末、私は明日に予定していた祖母山へのハイキングを明後日に延期して、今日もう一度「大崩山」の山頂を目指してみる事にした!

私のガイドブックにある、九州では大崩山に登って初めて一人前のハイカーだ、なんてフレーズがそこまで私を駆り立てたと言ってもいいだろう。だいたい延岡なんて辺鄙な街に上陸するのは私の人生の中でもこれで最後かもしれない。何としても今日こそ大崩山の山頂に立たなければ!


昨日の失敗を教訓に、食糧や飲物は前日のうちに用意して車に積み込み、万一に備えて昨日より二時間も早起きをした私が登山口に着いたのは八時過ぎの事だった。つまり私は、九州の独特な山岳事情のおかげで昨日のようなひどい目にあっても次善の策がとれるように、一〇時間程度の行動時間を確保して今日の大崩山ハイキングに臨んだってわけだ。そいつは、ある意味忌まわしい九州の独特な山岳事情に対する私なりの精一杯の敬意の表し方でもあった。

登山口前の車道に車を停めていると、ちょうど四人の若者が登山口から歩き始めるところだった。それほど山慣れた感じには見えなかったが、大崩山に挑戦しようというその意気込みが素晴らしいじゃないか。私が一声かけると、彼らは礼儀正しくそれに応えて山道を登って行った。


〇八時三〇分に登山口を出発した私は一〇分ほど歩いたところで一人の若いハイカーとすれ違った。何だってこんな時間に登山口の方に戻ってるんだ?私が事情を尋ねると、若いハイカーは「忘れ物をしてしまった」と言い、「全く最悪ですよ!」と半分泣きそうな表情で答えた。

まぁそれは全て本人が悪いのだが、それにしても私もそうだし昨日この辺りですれ違った二人組もそうだが、本当にこの大崩山って山には邪悪な神か何かが住んでいて、そこを訪れるハイカーに試練を与えては一人でにやにや喜んでいるのではないか、と思わずにはいられない程、誰もがスムーズに山頂に辿り着けないでいるようだった。


山荘前を〇八時五五分に通過、渡渉点には〇九時ニ〇分に到着。

渡渉点には例の若者四人組がたむろしていた。ひょっとしたら三人だったかな?例の「うっかりハイカー」が大事な忘れ物を持って戻って来るのを待っていたのかもしれない。とにかく彼らは沢を渡る事に全く関心がないようだった。

悪いが私には時間がない。また昨日のような目に合わない保証はどこにもないからな。若者たちに軽く会釈だけした私は、昨日そうしたようにロープの垂れた対岸の岩にさっさと取り付こうとして沢を覗き込み、困惑した。

昨晩の雨のせいだろう、昨日より明らかに水位が上がっている。昨日は何の苦もなく渡ったはずのポイントの水面からは、いかにもそいつに足を乗せたが最後、つるりと足を滑らせてしまいそうなスベスベ岩がちょこんと顔を出していて、そいつを踏み台に無事に渡れればいいのだが、間違って足を滑らせちまったら全く困った事態になりそうだ。

とは言っても他に安全な渡渉ポイントはないように見える。暫く思案した私は、私が一歩目を踏み出す安全な足場を構築するために、その辺にある手で運べる範囲で大きめの石を次々に渡渉ポイントに投げ入れるという作業を開始した。私が間違いなく安全に渡る事ができると判断を下すまで、私は一〇分近くも延々とそのくだらない作業に従事する羽目になった。


若者たちの何人かは私の作業の様子を何かを期待しながら遠巻きに観察しているようだった。後にして思えば、彼らは「うっかりハイカー」の仲間でも何でもなくて、ただ単に沢を渡る事が出来ずにその場に停滞していただけだったかもしれない。でもそいつは私にとってはどうでもいい事だ。ただひとつだけ、一〇分近くの貴重な時間を私がそこで浪費した、という事実は、やはりどこかに隠れているに違いない「邪悪な神」に対する、私の対決心を煽るのに十分だった。


〇九時五五分、昨日、私が致命的なミスを犯した「運命の分岐案内」を通過。





一〇時を少し過ぎた頃に雨がパラつき始めた。天気予報では昼過ぎまでは持つはずだったが少し早い。

大して雨足が強まる気配はなく、「様子見」の判断をして特に何の対処もせずにそのまま歩いていると、前方にカップルのハイカーが現れた。四〇代半ば位の夫婦だろうか、慌ててバックパックからレインウェアを取り出しているようだ。男の方が何となくアップル創設者のスティーブ・ジョブに似ていたので、私は勝手に彼らの事を「スティーブ夫妻」と命名した。夫妻は後ろから近づく私に気づいてすぐに道を開けてくれた。


ありがたく先を行かせてもらった私だったが、結局、雨足が少しばかり強くなって来たのでパックにカバーだけでもかけておくために立ち止まった。すると早くもスティーブ夫妻が私に追いついたので今度は私が夫妻にそそくさと道を譲らければならなかったが、歩き出すとすぐに私はスティーブ夫妻に追いついた。


結局、一〇時五〇分、私が先に袖ダキに到着。昨日とは打って変わって何も見えない。





軽くおにぎりなど頬張っていたら、五分ほどでスティーブ夫妻が到着。昨日一度は景色を堪能している私と違って初めて訪れた夫妻は何も景色が見えない事をぼやいた。

聞けば夫妻は福岡から日帰りの予定で高速を飛ばしてやって来たらしい。行きの渡渉点に橋がない事を不思議がっていた事から推測する限り、夫妻はかなり古い情報を元に大崩山ハイキングに挑戦しているようだった。

雨のせいで増水して帰りは渡渉出来ないのではないかとしきりに心配しながら、彼らは私を置いて出発した。


私は一一時ちょうどに出発。まず現れる案内板。





この板の言う事は嘘っぱちだ。黄色とか白のテープも追いかけないと正解のルートにたどり着く事は出来ない。

ニ〇分ほど歩いて私はついにスティーブ夫妻の後姿を捉えたが、彼らは「下和久塚」と近道の分岐を近道側に進路をとった。





「和久塚」にわざわざ登ってもろくに景色すら見えないので山頂への到達を優先する事にしたのだろうか。賢明な判断じゃないか。私はもちろん「賢明ではない」方へ。


ハシゴ登りから始まる「下和久塚」へのコースには随所にロープが現れる。足場なんてないツルツルの岩をよじ登るためのロープだ。





目の前に立ちはだかる元々ツルツルなうえに雨にまで濡れてる巨岩をこんな頼りないロープに掴まってよじ登るなんて生まれて初めての経験だ。始めは「おいおい、冗談じゃねぇぜ」と思ったが、実際にロープに取り付いて色々やってみるうちに、接地面積を最大化出来るように常に靴底を岩の表面に対してフラットに置く事を心がけていればスリップの心配はない事を私は学習した。


そこから先、無数に現れる雨に濡れた岩の難所にぶつぶつ文句を言いながら下和久塚のてっぺんと思しき地点と中和久塚のてっぺんと思しき地点をほぼ素通りして(何も景色が見えないからだ!)上和久塚の取っ付き地点にようやくたどり着いたのが一二時ニ五分。

もっともそこにたどり着いたとき、私はすぐにその場所が上和久塚の取っ付き地点だと気づいたわけではなかった。上和久塚と思しき岩峰が左手にあるのにそいつに登る方法が分からなくてきょろきょろしながら歩いていたとき、私はまず例によって何と書いてるあるのかちっとも分からない案内板をコース脇に見つけて立ち止まった。





何と書いてあるのかはまるで分からないが、この山ではどんなに小さなサインであっても決して軽んじてはならない事を私はもう知っている。こいつはこいつで何か意味があるに違いない。私はすぐさま周辺の捜索にとりかかった。

案の定、私の後方、それまで左手に見ていた岩峰のコースから見て裏側の地面に、もう一枚の案内板がポトンと落ちているのを発見。





全くどこまでも余計な頭を使わせる山道だな。またひとつパズルを解いて頭のキレるところを大崩山の神に見せつけてやった私は早速、前半戦最後の難所「上和久塚」に取っ付いた。


岩と岩の隙間を縫うように登っていった私を迎えてくれた、例によって真っ白な展望。





五分ほど休憩して下まで降りると例の若手ハイカーたちがいた。彼らもスティーブ夫妻同様「近道」ルートを辿ってここまでやって来たらしかった。だが私の遥か前方を歩いていると思われる夫妻と違って彼らは私よりもかなり遅いペースで移動していた。

この時点で既に一三時近くだ。私は彼らに別れを告げて先を急ぎながら、はたして彼らが彼らのペースで日没までに下山出来るのか気になった。


五分ほどで「りんどうの丘」の分岐に到着。





ここからちっとも面白くない山道歩きが始まる。まずガレ道。





退屈な山道。この辺りで帰りを急ぐスティーブ夫妻と遭遇。山頂は近いようだ。





スズ竹の藪。たまに道に覆いかぶさるように生えてるやつがいてムカつく。





一三時四五分、ようやく山頂に到着。

噂には聞いていたが山頂自体はまるで面白みがない。





おにぎりを頬張って記念撮影を済ませてから早速下山にとりかかる。一四時ちょうどに山頂を出発。

坊主尾根方面への分岐までは山頂から引き返してニ〇分ほどで着く。崩壊した案内板。





一五分ほど歩くとさらにもうひとつ。ちょっとふざけてるとしか思えない和久塚コースと違って至れり尽くせりだ。





さらに一五分ほど行くと「小積ダキ」との分岐。





この時点で「小積ダキ」が正しいのか「小積タギ」が正しいのかも知らないし、そもそもそれが何なのかを分かってない私はそいつを無視して坊主尾根方面へ。次に行く事があったら何としても「小積ダキ」には立ち寄らなければ!


かなり濃い笹ヤブに心底ムカつきながら一五分ほど歩くと「カラビナ推奨」の例の岩場に。





もちろんその手順は省略して手でワイヤーを掴む。

登り下りと同様に横切るときも靴底を岩の表面にフラットに置く事を心がけてさえいればまず安全だ。


何段かのハシゴを下りつつ少し進むと、またツルツル岩にロープ。そろそろうんざりだ。





崖の下が見えて高度感を味わう事が出来れば少しはスリルを楽しめるんだろうが、見渡す限り真っ白いガスしか見えないので、今となってはただ前に進むために淡々とやるべき事をこなしているだけの感じだ。

そんな私の退屈な心の叫びに応えて下さるかのように、大崩山の神は、私が松の木の根元までロープをよじ登ったときに恐ろしい二匹の巨大なスズメバチを私の周りによこしてくれた。もっとうんざりだ。


飛び回る神の使者を適当にやり過ごしてからさらに進むとロープの先にちょこんと下りのハシゴが見えて来た。私のガイドブックに、ロープからハシゴに移らなければならない岩場があって、そこが坊主尾根の「核心部」だと書いてあったがたぶんそれだろう。





ガイドブックにはロープで確保してもらうのが望ましいとまで書かれていたので、どれだけの難所なのかと内心ビビってたんだが、とにかく下の様子が見えないのでちっとも恐怖心が沸かない。私はその「核心部」も淡々と処理するしかなかった。

下から見るとこんな感じだ。





ハシゴが岩にべったりくっついているので、ハシゴにかけた足が爪先立ちになってしまう点には注意が必要だ。


そこからさらに岩と岩の間をくぐり抜け、ハシゴを下り、ロープを頼りに岩を下っていくと、橋と共にまた現れるワイヤー。





あまりにもロープとワイヤーが多すぎて私のグローブに穴があいてしまった。


そこから五分も歩かないうちに見えて来た、坊主尾根の名前の由来になったとされる通称「坊主岩」。ガイドブックには「米岩」と書かれていたが同じものらしい。





この時点でほぼ一六時。その後は私の感覚が麻痺している事もあって、特に印象深い難所もなく一六時ニ五分、林道分岐に到着。

そこからいよいよ本格的な下りが始まる。





三〇分も下ると沢が見えてくる。やっと帰りの渡渉点か、と安心するのはまだ早い。見えて来た沢が祝子川(ほうりがわ)の本流と合流する地点が渡渉点だ。

沢沿いの木々には、まだ沢を渡らずにこっちへ来い、という強いメッセージ性を感じさせるテープが大量にぶら下げられている。それを頼りになかなか現れない渡渉点にブツブツ文句を言いながら私がようやくそこにたどり着いたのは一七時ちょうどの事だった。





やりやれ、どうやら日没までには登山口に帰り着く事が出来そうだ。一安心した私は急に尿意を催したが、そこで私がどのような行動に出たかなんて誰も知る必要はない。


記念撮影などしながらそこでニ〇分ほどゆっくり過ごしてから、私は沢を渡った。

スティーブ夫妻が気にしていたそこの水位はまるで問題なかったが、仮に少々水位が上がって飛び石伝いにそこを渡る事が出来なかったとしてもちっとも構わなかった。私のシューズは水の中をじゃぶじゃぶ歩いても気にならないほどに、とっくに雨や汗のせいでずぶ濡れになっていた。


私がそこを出発してから実に九時間半ぶりに登山口に帰りついたのは一八時少し前の事だった。既にそこに車は一台もなく、スティーブ夫妻はもちろんのこと、例の若者四人組ですら私を置いてさっさと帰ってしまったようだった。

その頃には登山道はとっくに薄暗くなっていて、その事は昨日、一〇時一五分なんてふざけた時間に歩き始めた私が、もし道に迷う事なく山頂を目指してずんずん前に進んで行ってしまっていたならば、日没までに下山できずに真っ暗な山の中で野宿をする羽目になっていた事を意味していた。八海山でも似たような事があったな。結局、どうも私は山々の神に気に入られているようだった。


私の当初の計画は一日遅れで無事に達成された。雨のせいで何の景色も見えなかったそのハイキングに不満を感じるか、雨という悪条件にも関わらずそこを踏破した事に意義を見出すかはそのハイカー次第だ。早く風呂に入りたくてホテルへと車を飛ばしながら、少なくともこの山には後者を選択するだけの価値が十分にある、と私は思った。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。
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