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September 20, 2013


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

私の手元にある九州地方の山岳ガイドブックに「九州ではこの山に登って初めて一人前のハイカーだ」なんて洒落た事が書いてある「大崩山」を前にして、私がそいつを素通りするわけがない。延岡駅前のホテルを出発した私は登山口目指してレンタカーをかっ飛ばしたんだが、いきなり私の計画にケチがついた。


延岡駅前から三〇キロメートル弱のところにある登山口まで一件たりとてコンビニがないという事実は衝撃的だ。山間のホテルからの道のりじゃない。駅前のホテルだぜ?そこを出発して五分も走ると住宅街を抜けて川沿いの田舎道に入る。いやな予感がしたがそのまま車を走らせてしまった私はすぐに後悔した。


結局、駅前まで戻ってコンビニで食糧を調達した私は三〇分以上の時間を無駄にした。登山口に着いたのはほぼ一〇時ちょうどの事だった。登山口前の車道には既に五台ほどの車が停められていた。ほぅ、みんな頑張ってるじゃないか。

準備を済ませて一〇時一五分に出発。登山道の入り口には、よくあるヘボハイカー向けのものとはまるで次元の違う親切な警告の書置き。





ガイドブックによれば、三つの「和久塚」を経由して山頂を目指し、帰路は「坊主尾根」を下る王道コースの標準所要時間は八時間といったところだ。八海山で少々「日没時刻」に関する見通しの甘さを反省する羽目になった私だったが、まぁ仮にも九州なんだから一八時までに下山出来れば全く問題はないだろう。

途中、夫婦と思しき二人組の老ハイカーとすれ違う。まさかもう山頂まで行って帰って来たわけではないだろうから、実際に歩いてはみたものの自分たちのスキル不足を痛感して引き返して来たのかもしれない。いいねぇ、そういう実力者向けコースのハイキングは大好きだ。


大崩山荘前を一〇時四五分に通過。いい調子だ。





小屋前の坊主尾根との分岐を見送って和久塚方面を目指す。分岐の案内板には「三里河原」と書かれてある方角だ。


この山の登山道は、つるつるの岩の上を平気で歩かせる傾向がある。たまに谷側に傾斜していたりして、雨で濡れているときには絶対にその上を歩きたくないようなやつもある。





一一時〇五分に和久塚への分岐に着く。祝子川(ほうりがわ)の渡渉ポイントがすぐに現れる。

渡渉ポイントの全景。





つまりこの水に濡れたツルツル岩を渡って向こう岸の岩に垂れてるロープに取っ付けという事らしい。





そいつは不可能ではないだろうが、もう少しハイカーに親切な渡らせ方が出来ないものだろうか。


その先は概ね木の枝にぶら下げられたテープを目印に進む。踏み跡は必ずしも一本に統一されてないので、私は注意深くテープを探して、それに忠実に進む事を心がけた。


渡渉してからニ〇分ほど歩いたところで、私は珍しい案内板を見つけた。





何かの際には岩の下にでも潜ってろという事らしい。どうも九州の登山事情というのはこれまで私が経験して来たそれとは若干ズレているように感じる。


もう少し行くと、今度はこんな案内板。





読めない。

たぶん「山頂」という文字と左を指す矢印がうっすらと見えるような気はするが、率直に言って案内板としての役目をまるで果たしてない。右側は岩に阻まれて行き止まりで左側に踏み跡があるからいいようなものの、この山は本当に私がこれまで経験して来た山々の中でもとりわけハイカーに対する思いやりに欠けた山だ。


少し歩くと左手に巨大な滑り台のような岩が現れた。この「滑り台」は沢の一部になっていて、その上を水が流れている。





さすがにあの上を歩かせられちゃたまらないぜ!とか何とか思いながら、引き続きテープを目印に進む。


どんどん道が荒れて来る。





う〜ん、やはり九州の山ってのは一味違う。相変わらず要所にはぶら下げられているテープを目印に、どうもさっきから私にまとわり付き始めたように思えるスズメバチの羽音を気にしながら進んでいたとき、突然耳元で「ブオッ」という、これまで耳にした事のないような低音の羽音がしたような気がして、私は思わず「ホワット(何だ)!?」と叫んでそっちを見た。

それは昆虫やその他の動物の羽音でもなければ私の耳元で発せられたものでもなかった。私の目線の先、一五メートル程向こうに、たぶん私の姿に身の危険を感じて大慌てで逃走を図る二匹の子連れの母イノシシの姿があった。あれは羽音ではなくて、母イノシシがかわいい子どもたちに向けて発した警戒音だったのだ!ハイキングコースに野生のイノシシだって!?おいおい、九州の山ってのはちょっとヤバ過ぎるぜ!


さらに進むと、巨大な岩峰に両側を挟まれた枯れた沢底にたどり着いた。先の方にいくつものテープがぶら下げられてるのがはっきりと見える。うひゃー、今度はこいつを登って行くのかい?





結論から言えば、私は通常なら「何かおかしい」と気づかなければならない事態に陥っても、それは九州の山がそもそもおかしいのだ、と勝手な推測をしたばかりに、それに気づくまでに少しばかり時間をかけ過ぎた。その沢底を一〇分ほど登った私はついに岩峰に行く手を遮られた。





間違いなくテープはぶら下がってるが、何度見てもその先は行き止まりだ。この沢底はそもそもハイキングコースなんかじゃないと判断せざるを得ない。

登りにかけたのと同じ位の時間をかけて下って沢底のスタート地点に戻ってみると、全く違う方角にぶら下がってるテープが目についた。何だ?あっちが正解か?ニセのテープをぶら下げて置くなんてマジでふざけた山だな。私は正解のテープの方向へと歩き始めた。


いやいや、そいつも正解でも何でもなかった。途中でそれ以上テープを見つけられなくなったばかりか踏み跡らしきものすらまるで見当たらなくなった。地図を取り出して今さらながら周りの地形から現在地を判断しようかと試みてみたが、まるでちんぷんかんぷんだ。

くそっ!登山道なんてものは全国どこでもテープを信頼すればそれでいいと思っていたが考えが甘かったようだ。時刻は一二時五〇分。正しい道に復帰する事が出来ても日没までに山頂に行ってさらに帰って来るのはさすがに不可能だろう。この山は是非一度踏破してみたかったんだが仕方がない。男は諦めが肝心だ。


そうは言っても日没までにはまだ時間がある。落ち着いて行動すれば少なくともどこかのマヌケなハイカーみたいに真っ暗な山中で計画外の野宿をするような羽目にはならないだろう。そこまで切羽詰った状況なんかじゃないさ。私は少しばかり後ろ髪を引かれる思いをしつつ山頂踏破の計画を放棄する事を決断し、私がこれまで目印にして来たテープと、それから私が今日つけてやったばかりのほやほやの足跡を頼りに下山を開始する事にした。


結局、正しい登山道らしきものに復帰できたのはそれから三〇分後の事だった。行きでは見かけなかった山頂の方向を明確に示す案内板を見つけた私はとりあえず、どこかの救援組織に探し回ってもらって助けて頂くような、ハイカーとしてとんだ「恥晒し」に合う危機を脱した事は理解した。





そのままふてくされてホテルに帰ってもよかったが、まだ行動できる時間はあり余ってる。何年後の事になるか分からないが、次に来た時のためにもう少し先まで行ってコースを偵察しておくか。

袖ダキという名前の展望所までなら一時間足らずで行けそうだと踏んだ私は、そいつを目指して正しいコースを歩き始めた。そこから先は、私が迷い込んだ謎のエリアとさほど変わらないくらい荒れた山道がところどころに現れたものの、テープと踏み跡をしっかり追跡していけば迷いそうなポイントはなかった。

五〇分ほど歩いて「袖ダキ」と書かれた案内板を発見。





ロープを掴んで岩を登ると、花崗岩で生成されていると言う、ガイドブックに写真で載っていたのと全く同じ岩峰の姿が視界に飛び込んできた。こいつはなかなかの奇観じゃないか!





私は袖ダキで遅めのランチを貪りながらそこでの見晴らしを堪能し、ニ〇分後には帰路についた。


結局、私が何を間違えて山頂踏破の計画を台無しにされてしまったのかは帰路で判明した。私は、案内板の表示が読み取れないと思った時でも、目を皿のようにして案内板を凝視しなければならない事を学習した。

矢印らしきマークの左側の先っぽが尖がってるからって、そっちが進むべき方向とは限らないって事もだ!





もちろん、たとえ「右側は岩に阻まれて行き止まり」に見えたとしてもそれは変わらない。





そしていくら左側に踏み跡があったって、それは私と同じような目に合った悲劇のハイカーたちが残していったものかもしれないって事も忘れてはならない。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。
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