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August 28, 2013


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

この私が盛岡の地を踏んだからには、早池峰山に登らないなんて事はありえない。

手元のガイドブックによれば、河原坊登山口から登って小田越に下るコースなら標準所要時間はわずかに五時間だ。もののついでに、すぐ南にそびえる薬師岳の山頂まで往復して河原坊まで戻る事にしてもせいぜい八時間といったところだ。

私は九時に登山口に到着すれば十分だと考えて、当日八時にレンタカーの予約を入れておいた。


定刻通りに車を借り受け盛岡市内を出発した私は、カーナビに「早池峰山」と打ち込み、指示されたルートに従って車を走らせた。カーナビ曰く、到着予定時刻は九時半とある。あれ?結構時間がかかるんだな。まぁ三〇分くらいどうって事ないさ。

途中、カーナビにインプットされてない新道との分岐に差し掛かった。カーナビは旧道の方に私を誘導しようとしたが、新道の方が車線も多くて走りやすそうだったので、私は迷わず新道へとハンドルを切った。

まもなく早池峰山の登山口へは道なりに行けという標識が立っていたので、私はカーナビの案内を無視して新道をひたすら走った。どうもおかしいな、と気づいたのは、私の行く国道が何かの線路沿いに走っている事に気づいたときだった。


車を止めて、トランクのバックパックからガイドブックを引っ張り出して来て地図を確認した私は、事態を掌握した瞬間に誰でもいいから殴りたい衝動に駆られた。

たしかにこの道は早池峰山の登山口を目指してはいるが、私が向かうべき河原坊とは全く反対側の門馬の登山口じゃないか!


門馬の登山口から山頂までは登りだけでも五時間以上かかる。林道を車で登って握沢まで行ってもそこから山頂まで四時間。林道を車で通行するのにどれほど時間がかかるかは分からない。どちらも選択肢として問題外だ。

私は腹を決めた。早池峰山の北側から東へ大回りして、本来、私が向かうべきだった山の南側、河原坊まで車を走らせる。私は道中、その辺を仕事熱心な警官の乗ったパトカーがうろついてない事を祈りながらクソ狭い田舎道を走った。


河原坊の駐車場にようやく着いた頃には既に一〇時半。起きてしまった事は仕方がない。与えられた条件の中でいかに最善を尽くす事が出来るのかで、そいつの人生の価値は決まる。あっという間に着替えを済ませて便所で放尿を終え、登山口に立ったのが一〇時四五分。





もちろん周囲には誰もいないが、そんなのはいつもの事だ。気にしないで出発だ。


河原坊からの登山コースは、歩き始めこそ一般的な登山道の赴きだが、一五分もしないうちに岩のごろごろ転がるガレ場歩きになる。


暑さに文句をタレながらちんたら歩いて、頭垢離(こうべごおり)には一一時四五分に到着。





この辺りで樹林帯を抜け、振り返ると薬師岳や周囲の山々の見事な展望が目に飛び込んでくる。

ここから山頂まではコース脇にロープの張られたザレ場の急登だ。登って行くうちに既に下山を開始した何組かのハイカーとすれ違う。時刻を考えれば、彼らのやってる事はまともだ。私はちょっと頭がイカれてる。


ふと見上げると、私のはるか前方に、まだ山頂を目指して登っている最中のハイカーが一人いる。「お仲間」の登場だ。

別に「お仲間」がいたところで何も嬉しい事はない。ただ私が前方に聳える早池峰山の写真を撮るときに彼が写り込まないように彼には邪魔にならない所にいて欲しいなんて事を考えながら歩いているうちに、私はあっさり彼に追いついてしまった。

そのハイカーは間近で見ると背筋のすっと伸びた実に紳士的な人物で、声をかけてみると、その物腰はとても柔らかく、私はすぐに好感を持った。

ただ彼の歩いている様子を見ていると、このザレ場の急登を登って行くには少々体力が足りないように思われた。とても残念な事に、好人物であるか否かとハイカーとしての実力の間にはいかなる相関関係も存在しない。


彼と分かれてそんな事を考えながら歩いていると「御座走り」と書かれた標柱に出くわした。何の事か分からないままその標柱を通り過ぎた私は、その先にあるロープの垂らされた岩を見てその意味を理解した。

どちらかと言うとその岩は、下りの目線の方が刺激的なように見える。





一二時三〇分、「打石(ぶつえず)」前を通過。





薬師岳を振り返る。





山頂には一三時一〇分に到着。





手元のガイドブックによれば標準コースタイムは三時間ニ〇分とあるから、それより一時間近く早く着いた事になる。私は下界で犯した数々の判断ミスからこさえた借金を帳消しにした。

山頂では三組ほどのハイカーが寛いでいたが、私が適当な岩に腰掛けてバックパックの中からおにぎりを取り出す頃には皆いなくなってしまった。いい流れじゃないか。いつもの事ながら私は山頂を独り占めする特権を享受してからランチタイムを楽しんだ。


鳥海山でも感じた事だが、東北エリアの山は森林限界が低いので低山でも素晴らしい展望のハイキングを楽しむ事が出来る。おまけに空気も澄んでいる。昼食を終えた私はどちらの方角を見渡しても素敵な景色の広がる山頂で、双眼鏡を覗き込んだり、写真を撮ったり、寝転んだりしながら一時間以上過ごした。

一四時ニ〇分、私は下山を開始した。結局、私が好感を抱いた例の初老のハイカーは最後まで山頂に姿を現すことはなかった。


小田越コースの下山路は、常に正面に薬師岳を見下ろしながらの爽快な下りコースだ。





八合目の先でちょっと長めの梯子を下りようとしたら、まさに今から梯子を上り始めようとしている二人のハイカーがいたので私は少々驚いた。三時近くにもなってまだこんな所をうろついてるなんて、私より頭のおかしな連中だぜ!

彼らは私に気づいて梯子を上るのをやめ、私に先に下りるよう手招きした。私はありがたくそうさせてもらった。彼らのもとまで下りてみると、二人は六〇歳かそこらの夫婦と思しき二人組で、男の方は口を開くと金歯が眩いばかりに輝いた。

少々言葉を交わしてみると、今から山頂まで登って、その後どのコースで下山するのかも決めていないらしい。もちろんそれは彼らの自由なんだが、私は河原坊への下山コースは岩場歩きになるからやめておけ、とやんわり忠告だけしておいた。

彼らに分かれを告げて少し下ってから振り返って彼らが梯子を上っていくさまを見てみると、やはり彼らも、いま彼らが取り組んでいる物事をスマートに終わらせるには少々体力不足のように私は感じた。彼らが山頂に着くのはどんなに早くても三時半を優に過ぎた頃だろう。彼らは日没までに下山できる当てがあるんだろうか?そんな事を考えるよりも早池峰山の山頂に立つ事の方が彼らにとってそんなに大事な事なんだろうか。


途中、御金蔵(おかねぐら)に置いてあったツルハシを使って盗掘屋のマネをしている写真を撮るのに一五分も手間取り(結局、逆光で満足の行く写真を撮る事は出来なかった)、小田越の登山口に着いたのは一六時の事だった。薬師岳の往復計画はもちろんなかった事にして、さらに車道を河原坊まで歩いて駐車場に戻ったのは一六時ニ五分。

車道から見上げた青い空をバックに聳え立つ早池峰山の美しい姿が、最後に私の疲れを癒してくれた。





何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。
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