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August 25, 2013


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

この私が秋田の地を踏んだからには、鳥海山に登らないなんて事はありえない。


鉾立の駐車場に着いたのは九時過ぎ。ガスで視界が効かないばかりか小雨まで降っていて、そのへんをうろついているハイカーたちはみんな全身レインウェアのフル装備姿だ。

象潟から鉾立まで延びている道を鳥海ブルーラインと言う。名前は立派だが林道に毛の生えたような山道で、そこにはコンビニも何もなかった。食料を買いそびれた私は稲倉山荘でひとつニ〇〇円の「高級」おにぎりを二個調達し、便所で放尿を済ませてから車に戻ってレインウェアを着込んだが、雨足が強まる気配がないので上はすぐに脱いでバックパックに仕舞った。

〇九時五〇分に登山口を出発。





登山道は全て石畳が敷かれていて、ひたすらそれを辿る。相変わらず周囲はガスに包まれているが、道に迷う要素がまるでない。

時間が時間なので、前日御室か御浜の小屋あたりで泊まったと思われるハイカーたちが何組も降りて来る。


「賽の河原」には一時間で到着。この頃にはガスも晴れ、青空が見えて来た。ほぅ、なかなか楽しいハイキングコースじゃないか。





既に森林限界を越えているので、ガスさえ晴れれば常に素晴らしい展望の中を歩く事になる。早速、私はこの山がひどく気に入った。

御浜神社には一一時ニ〇分に到着。





裏手に回ると鳥海湖が見える。





一一時五〇分には御田ヶ原を通過。外輪山らしきものが見えて来る。





七五三掛の分岐には一二時ニ〇分に到着。

多くのハイカーは左に進路をとり、千蛇谷へと下って新山を目指すだろうが、私はあえて右手の外輪山経由だ。岩場に取っ付いて一気に高度を稼ぐ。


敢えて苦難の道を選んだハイカーはその功績により、そうしなかった人々を随分と上から見下ろすという特典が与えられる。





一二時五〇分に「文殊岳」に到着。





「雲さえなければ」新山が間近に見える素晴らしいスポットだ。外輪山コースに入ってからは誰とも会わなかったが、ここで無愛想なハイカー一人とすれ違う。

少々腹が減って来たが先を急ぐ。


外輪山のルートは「雲さえなければ」常に展望に恵まれていて、実に素敵なハイキングコースだ。途中「行者岳」手前の岩場で私は三脚を取り出し、いつものように母なる偉大な自然をバックにセルフ撮影を開始した。

タイマーをセットして私が然るべきポジションに移動し、カメラに向けてクールなポーズをキめた瞬間に、あろう事か三脚がカメラごと前に倒れて来てカメラのレンズが地面を直撃した。私は新山まで響き渡らんばかりの大声で下品な罵り声をあげた。


慌ててカメラを拾い上げてレンズを覗いてみると、その優秀なキャノン製カメラのレンズは割れてはいなかった。今のところ撮影に支障はなさそうだ。もちろん無傷と言うわけには行かない。私のカメラのレンズはケガをしてしまった。しかも撮影した写真に間違いなく悪い影響を与えそうなケガだ。そこにないものが微かにでも写り込んでる写真なんて私は何があっても許さない。あぁ、でもカメラは春先に買ったばかりだ。たしかまだ保証期間は終わってなかったな。

私はせっかくの楽しいハイキングの時間を、それを買った店に何と説明して金を払わずにそのカメラを修理させるかという困難な計画の立案に費やさなければならなかった。


「行者岳」を経由して旧山頂の「七高山」に到着したのは一三時五五分。

誰もいないのをいい事に、墓石みたいなオブジェを前に記念撮影。





さぁ、あとは「新山」の山頂に立ち寄って帰るだけだ。

「行者岳」の方へと戻る道の途中に御室小屋へと下る分岐がある。ロープ沿いにザレ場を下ってから登り返す。


「新山」はさながら巨大なケルンといった様相だ。山頂へは、火山活動で積み上げられたと思われるいくつもの巨岩をひたすらよじ登って行く。

最近あまり街では見かけなくなった例のメッセージが、どういうわけかそこら中の岩にしたためられている。





一四時三〇分、「新山」の隣のピークに到達。ようやくここで「高級」おにぎりの出番だ。

そいつを平らげ、「新山」を占拠していた四人組のハイカーたちが消え去ったのを確認してから「新山」によじ登って記念撮影。





誰もいない山頂で少しばかりのんびりしてから、そろそろ下山しようかとカメラを入れてあるパウチに突っ込んであった地図を取り出そうとすると、どこにもない。くそったれ!カメラを取り出すときにでも落としてしまったんだろうか。レンズの件といい、全く今日はろくでもない事ばかり起きやがる一日だな。

時間が時間なので、下山中に道迷いはおろか、ちょっと道を間違えて引き返すという事態すらも私としては受け入れがたい。つまり日が暮れるまでには駐車場に戻らなければならないし、あわよくば下山したら何件ものラーメン店がしのぎを削るという酒田まで車をすっ飛ばして閉店前のラーメン屋に滑り込もうと考えている私には、一分たりとも無駄にできる時間などないって事だ。


御室小屋まで降りて行くと、ちょうど鉾立の方から千蛇谷経由で登って来たと思われるハイカー集団がいた。私は躊躇なく一人の男に彼らが鉾立から登って来た事を確認した。それから別のグループの一人にも念のために同じ事を聞いた。どうやら私が戻りに使うべき道は間違ってないようだ。

一人目のハイカーは、ここに来るまでに疲れてしまったのか、或いはもともと陰気なのかは知らないが、あまり私に好意的な反応を示さなかったが、二人目の初老の男性は気さくな人物で、しばし無駄話に興じてしまった。


そのハイカーと分かれてから下山を再開した私は、間もなく一組の老ハイカーの集団とこそすれ違ったものの、その後は御浜神社に至るまで一人のハイカーとすら会わなかった。つまり周囲に広がる素晴らしい景色を私はいつだって独り占めしながら帰り道を歩いていった。

ところどころ雪の残る谷を隔てた左手の断崖絶壁の上部には私が往路に辿った外輪山コースの稜線がそのまま見渡せた。全く往きも帰りも私を飽きさせない山だぜ!私はそこら中で三脚を立てては自分の写りこんだ写真を撮りまくった。


そのうち雲が一面を覆い始め、一向に晴れなくなった。そういえば予報では夕方から雨だったな。私は三脚をさっさと仕舞って、後はひたすら帰りを急ぐ事にした。


ガスの中を順調に距離を稼いでいたとき、私が辿っていた道が突然ある地点で私を雪渓へと誘い込んだ。視界の効かない大自然の中を一人ぼっちで歩いていて想定外の事態に出くわす事ほど不快な事はない。唯一、地図がない事を不安に思った瞬間だった。

雪渓の先は外輪山コースの基部だ。う〜ん、まぁ往きに外輪山を辿ったんだから、そっち側に戻る道なら正解なんだろう。たぶん今年一番面倒くさそうな顔をしてそう考えてから私は雪渓を渡った。私の判断はいつだってシンプルだ。





一七時一〇分に御浜神社を通過。そろそろポツポツと雨が降り出した。だが上半身は無防備とは言え、下半身はいつひと雨来ても構わないように防水パンツにゲイターまで着けたままだ。まぁシャツなんて汗で濡れたって思えばいいさ。今さらいちいちバックパックを一度降ろしてレインウェアを取り出すなんて面倒なマネをするまでもなく、私はそのまま小走りで登山口を目指す事にした。


私が軽やかなステップで石畳の上を進んでいた時、本当に私は目を疑ったのだが、前方に二人のハイカーがいるのが見えた。どうやらカップルのようだ。女の方は朝方に稲倉山荘で見かけた気がするな。男の方は・・・ まったく記憶にない。とにかく彼らはバックパックを降ろしてレインウェアを取り出すという、私に言わせるところの「面倒な」作業の最中だった。

率直に言って、雨に濡れるのがいやなら、雨が降り出してからレインウェアを取り出すというのはあまり賢明でない、と私は思った。その日の雲の動きとか、或いは天気予報を頭に入れていれば、彼らはもっと早い段階でレインウェアを取り出せていたはずだ。

そんな事より、私が言うのも何だが、彼らは何でこんな時間にまだこんな所をうろついているのか?少なくとも私が二人に声をかけて颯爽と抜き去ったとき、男の方は一瞬驚き、それから少し安堵の表情を浮かべたように見えた。僕たちの他にもまだこの山に人がいたなんて!とでも言いたげな。女の方は座り込んでいて、私が見る限りもう体力の限界といった感じで、私が声をかけた事などどうでもいい、と思っているようだった。


しばらく行くと、さらに若い男の二人組が石畳の真ん中に座り込んでいた。もう少しで登山口だってのに最後の休憩か?あれ?新山の山頂で見かけた男たちのようだ。そのときは四人組だと思っていたが、あれは二組の二人組だったのか・・・。

彼らが随分と長く(少なくとも私はそう感じた)山頂を占領していたので、私の様々な予定がちょっとずつ後ろにずれてしまったのだが、まぁいい。マナーとして一声かけると彼らはとても爽やかな笑顔を見せて私に道を譲った。


それからさらに行くと、今度は石畳の道を登って来る男がいる。私は一瞬、彼が何をしようとしているのか理解できなくて困惑した。夕方の六時にたった一人であの鳥海山に登り始めるって?私が少々混乱しているとその男が話しかけて来た。

何でも下山中に足を挫いて動けなくなったハイカーが、彼の所属する組織に救援要請をよこしたので、彼はこんな時間にひと仕事する羽目になったらしい。ご苦労さん。彼はどうやら私が彼を迎えに来た尖兵だと思ったようだ。残念だが、私にそんなドジな知り合いはいないぞ?

心当たりを聞かれたが、まず真っ先に思い浮かんだのは、見るからに「もう動けないわ」というオーラを発散しながら座り込んでいたカップルの女だった。足を挫いたのは男なのか女なのかを尋ねると、救援組織の男は「分かりません」と答えた。普通、確認しないか?


まぁいずれにしたって状況から見てあの女ハイカーか、あるいは座り込んでいた若者二人のどちらかしかありえない。私は彼らを見かけた大まかな位置を救援隊員に説明して、彼と分かれた。それからカップルの男の事を思い出した。あの安堵の表情は「やっと迎えが来た」という思いから浮かんだものだったんじゃないのか。もしそうだとしたら冷たく抜き去ってしまって悪い事をしたな。


もう一組、五十がらみの男二人を抜き去って登山口まで戻って来たのは一八時一〇分の事だった。一般論としてハイカーの行動終了時間としては不合格だ。最近このパターンばかりだな。それでも私より遅い時間までハイキングにいそしむハイカーもいるわけだ。まぁみんなが無事に帰って来れれば何よりだ。


私が駐車場で着替えを終えて、酒田のラーメン店を目指してレンタカーのアクセルを踏み込み登山道入口の前を通り過ぎたとき、例のカップルがようやくそこに到着したのが見えた。じゃあ救援隊のお世話になったのはやっぱり若者の方か。私はそれほど気にしてなかったが、彼らが私の予定をほんの少しだけ狂わせた罰を神が彼らにお与えになったのかもしれないな、と勝手な事を考えながら私は酒田への道を急いだ。


そして七号線で事故渋滞に巻き込まれた私が酒田の町に到着したとき、私が事前にチェックしてあった七件のラーメン屋は全て店じまいした後だった。


何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。
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