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August 17, 2013


やぁ、諸君。私がプッシー大尉だ。

米子を訪れたついでに私は伯耆大山にハイキングに出かける事にした。


伯耆大山の山頂は避難小屋のある「弥山」とされているが、実は伯耆大山の最高峰は「弥山」から稜線伝いに東に位置する「剣ヶ峰」である事は、あらゆる伯耆大山に関するガイドブックに記載されている。

だが一〇年以上前に起きた地震の影響で稜線は崩壊してしまったため、現在「剣ヶ峰」へと至る縦走路は立ち入りが禁止されている。もし今日、伯耆大山を初めて目指すハイカーがどこかでそのルートマップを手に入れたとしても、「弥山」から東に登山道は存在しない事になっているだろう。

反対の天狗ヶ峰側から「剣ヶ峰」へと至る稜線も同じ理由で「立ち入り禁止」だ。にも関わらず、今日に於いてもいずれかのルートを辿って「剣ヶ峰」を目指す不届きなハイカーが跡を絶たないようだ。けしからん話じゃないか。よし、私が行って一言注意してあげなければ。


東京を発つ前に私がガイドマップを参考にこさえた手製のルートマップによれば、大山情報館前の駐車場から「天狗ヶ峰」までのコースタイムは一三五分だ。そこから先はルートがない事になってるので距離を元に大体の所要時間を推測するしかないが、まぁ一〇時に登り始めれば、槍ヶ峰まで足を延ばしてから剣ヶ峰に向かい、そこで捕まえたハイカーにお小言を言ってやって、それから下山しても日没までには余裕があり過ぎるくらいだろう。

私は睡眠時間をたっぷり取って九時半ごろに旅館を出発した。


観光マップを参考に駐車場を目指したが、途中で道を間違えたりして、駐車場に着いた頃にはとっくに一〇時を過ぎていた。まぁ問題ない。時間に余裕はある。

「文政の大鳥居」前で尿意を催しトイレを探し回ったりして(結局なかったが)多少の時間を浪費し、「大山寺」への参拝は省略して、いよいよ鳥居をくぐったのは一〇時四七分。





そこからしばらく、自然石のものとしては国内最長を誇るとされる石畳の参道。





「奥宮」は結構な段数の石段の上にある。そこでトイレを見つけた私は無事に放尿を終え、建物の裏にある「行者登山口」へ。時刻は一一時一〇分。

五分もしないうちに分岐が現れ、左に折れる。岩のゴロゴロした道を三〇分ほど登ると「下宝珠越」。

多くのハイカーはそのまま「中宝珠越」側へと進むところだろうが、私は好奇心から「宝珠山」に寄り道する事にする。

五分ほど歩いて宝珠山の山頂。恐ろしいほど凡庸でつまらない。





下宝珠越まで戻ってさらに宝珠尾根を歩いて行くと、次第に視界が開けて来る。はるかかなたに見える「ユートピア避難小屋」。





このあたりから岩をよじ登ったり、崩落した巻き道を越えたり、とハイカーにあまり親切でない道のりになる。この時点で時刻は一三時〇五分。あれ?何かおかしくないか?

駐車場を出発してから二時間少しで天狗ヶ峰に着いてるはずじゃなかったか?もう一度、手製の地図を取り出して確認した私は愕然とした。登りのコースタイムを合計した「一八五」という数字が丸で囲んである。くそったれ!

私はどうやら昨夜、間違えて同じように丸で囲んだ下りのコースタイム「一三五分」を登りのコースタイムだと思い込んで寝てしまったようだ。実際にはここから天狗ヶ峰まではさらに一時間以上かかる計算になる。私はこの時点で、剣ヶ峰に到達する事を優先する必要から、槍ヶ峰の往復をすっぱり断念した。


上宝珠越に着いたのが一三時一五分。さらに肩で息をしながらニ〇分ほど登ってようやく「三鈷峰」の山頂(一五一六米)に到達。由緒ある参道だと聞いていたが、このコースはなかなかハードだ。暑さもたたって疲労困憊の私はニ〇分ほど休憩。





三鈷峰から避難小屋までは一五分ほどの距離だ。先客ハイカーが一人いたが、小屋の中で何やらごそごそしてから下山方向に去って行った。





さぁ、ここからが本番だ。時刻は既に一四時ニ〇分。常識的に考えて、もう誰も登って来る事はありえない。この先、もし私が不注意から足を滑らせ、不幸にも谷の底までまっさかさまに落ちてしまうような羽目になっても、誰も気づいてくれやしないって事だ。気合を入れなければ。

私は最後のおにぎりを頬張り、バックパックのボトルにある水分をベルトに括り付けたパウチのボトルに移しかえられるだけ移しかえてから天狗ヶ峰方向へと歩き始めた。


しばらくは、確かに細いうえにいやらしい砂利道だが、特に難しいとも思わない踏み跡が続く。





ユートピアを発ってからニ〇分ほど歩いたあたりで、前方の稜線に人陰を確認する。私が言うのも何だが、こんな時間にあんなところをうろうろしやがって何考えてるんだ?

遠くから見ている限り、前進するのにかなり手こずっているようにすら見える。


私の行く稜線は、片側は切れ落ちているものの、まだ大丈夫だ。





いやいや、そんな事を言ってられるのは前に進んでいる間だけだった。しばらく歩いてからいま来た道を振り返るとき、愚かなハイカーたちは退路を絶たれた絶望感を味わう事になるだろう。





山で起きる事故ってのはだいたい下りで起きると相場が決まっている。下り道の方が登りよりはるかにバランスを保つのが困難だって事だ。ましてこんな両サイドの切れ落ちた砂利道を下って行くなんて私にとっては少々受け入れがたいリスクだ。

おまけにあの宝珠尾根のしんどいコースを下って行くのもまっぴらだ。夏山登山道ならどうせビギナー向けだし下っていくのも楽そうだ。私はそのとき喜んで弥山まで縦走する事を決意した。


前方を見やると一本道の少し向こうに「天狗ヶ峰」の山頂が見えて来た。例のハイカーがいてこちらを見ている。下って来る気か?一本道のうえですれ違う事は到底不可能だ。私は「こっちに来るかい?」というジェスチャーをして見せた。

それを見たハイカーは「お前が来い」と言わんばかりに手招きをした。ありがたい。正直ちょっと先を急ぐんだ。私はそそくさとその一本道を渡り終えて彼の元にたどり着いた。

一人だと思っていたそのハイカーにはもう一人、女ハイカーのお供がいた。男の方は随分とダンディーな雰囲気を漂わせた初老の人物だった。サングラスで顔が隠れているが、マダムの方もたぶん同年配だろう。夫婦かとも思ったが、あまりに男の方がダンディーなので、ちょっとわけありの二人かもしれないな、などと私は余計な心配をした。


てっきりもう剣ヶ峰まで到達して引き返して来ているのかと思ったら、二人はまだ剣ヶ峰に向かっている途中で、先に進むのが怖くなったが戻るのも怖くて、もうどうしようかしら、とマダムが楽しそうにまくし立てた。

それを決めるのは彼らの仕事だが、私は、ここからユートピアに引き返す位なら縦走してしまいますね、と個人的な意見を述べた。それを聞いたマダムは「ついていくわ!」と即答した。ダンディー氏は何も言わなかった。私は、私が谷の底に落ちてしまったら然るべき機関に通報してくれるよう頼んでから、彼らの先を歩き始めた。


剣ヶ峰に至る稜線はそれまで以上に神経を使う。踏み跡は途中で右(北)側のヤブの中を通る巻き道へと続くが、そこを通る誰もが心の安らぎを覚えるはずだ。





天狗ヶ峰から一〇分ほどで剣ヶ峰に到達。三脚をセットし終えたら、さっそく剣ヶ峰を尻に敷いて記念撮影だ。





私が一人で写真を撮って遊んでいると、ダンディー氏とマダムもほどなく到着した。だがあまりゆっくりしてる暇はない。ここから弥山までの稜線こそ最も根性を入れてかからなければならない本日のメイン・ステージだ。

時刻は既に一五時三〇分だ。私は二人に一声かけてからいよいよ弥山への縦走路に足を踏み出した。


縦走路はそれまでにもまして、稜線崩壊の傷跡をまざまざと見せつけてくれる。特に右(北)側面の崩壊が著しい。





足を乗せた瞬間に崩れ落ちそうだ。





たぶんこいつが難所として名高い「ラクダの背」だろう。遠慮なく尻を使って下りる。





振り返ると、(四つん這いで)奮闘するダンディー氏。





たしかにもはや道でも何でもない。


ときには尻を使い、ときにはタマをこすりながら前進を続け、ようやく「三角点」に到達したのが一六時一五分。


弥山側から稜線への入り口には、夏山登山道を登り切った程度のハイカー風情には絶対に立ち入らせないという当局の強い姿勢を感じさせるロープが二重三重に張り巡らされている。





あれ?ところで私は何か目的があってあんなクレイジーなルートにハイキングと洒落こんだんじゃなかったっけ?まぁいい。無事にここまでたどり着けたのだから「よし」としなければ。


途中で姿の見えなくなったダンディー氏一行の身を案じつつ、時間も時間なのでとっとと下山(彼らは六合目で写真を撮っていた私に追いついて、そのまま風のように去って行った)。

夏山登山道で下りきってもよかったが、「大山寺」に参拝するのを忘れていたのを思い出し、元谷を渡って大神山神社経由で「大山寺」へ。

夜には撞くな、と書いてあったが、一九時なんてまだ夜じゃないだろう、と「開運鐘」を力いっぱい撞いてから駐車場に帰り着いたのは一九時〇五分。率直に言って、下山を完了する時刻としては甚だ不適切だが、昨夜たっぷり睡眠をとったおかげで今日のハイキングを無事に終える事が出来たのだと思えば許容範囲だ。


駐車場から見上げると、今日歩いた三鈷峰から弥山に至る稜線がはっきりと夕暮れの空に浮かび上がり、その上に月が輝いていた。





何か質問は? OK。諸君の健闘を祈る。

以上だ。
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