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File No. 0002:安倍政権の本質とは何なのか
安部政権の誕生を契機として株価が上昇しています。一般的には、公共事業の復活や金融緩和による景気の回復への「期待から」投資家が日本株の買いに転じている、という見方が為されているようです。

厳密に言うとこの考え方は間違っています。投資家とは名ばかりのアマチュアの皆さんは分かりませんが、少なくとも「賢明な」投資家は景気回復そのものを期待して株を買っているのではなく、今後景気が回復しようがしまいが、発表された安倍首相の政策の内容を見て相場の流れが「株価上昇に転じる」と判断したから「買い」に回っているのです。投資家にとって重要なのは「利益を上げること」です。株価が下がると思えばカラ売りという手法で利益を上げればよいだけで、彼らにとって、為政者の掲げている政策が国民のために正しいものであるかどうかは大きな問題ではないのです。

ただの理屈のようでいてこの違いは極めて重要です。つまり「株価が上昇している」事実は、必ずしも市場が安部政権の政策を「評価している」こととは一致しないのです。安倍首相は、自分が首相になって株価が上がったなどと浮かれているようですが、思慮深さの求められる一国のリーダーに相応しくない一面が早くも見え隠れしているように思われます。
 


ここで財界だけでなく多くの国民にも圧倒的な支持を得ているように思われる安部政権が打ち出している政策を個別に考察してみましょう。まず大々的に公共事業の復活を打ち出しました。土建業界は言うに及ばず、一部の国民にさえこれを歓迎する声があります。厳しい雇用環境や中小企業の経営状況を考えれば「まずは景気を回復して欲しい」という多くの国民の願いは分からないでもありません。もちろん私も、可能であるならそうなって欲しいと願っています。

ですが問題はその実現の方法です。安倍首相は過去のそれとは違うと強弁していますが、残念ながら安易な借金に頼る事でしか成立しない旧来型の自民党式政治手法から何ひとつ脱却していません。

安倍首相がやろうとしている事は、バーで居合わせた大勢の客にお酒を気前よく振舞って「どうだい?安倍晋三の酒は美味いかい?」などといきがるのと同じことです。見落としてはならないのは、彼はそれを自分のお金ではなく子供たちの「ツケ」でやろうとしている事です。いい顔をしている自分は、実は働きもしないで上機嫌で周りに手を振っているだけのお調子者で甲斐性なしのダメ親父なのです。
 


安倍首相の政治姿勢がよく分かるもうひとつの例は日銀に対する要求内容です。安倍首相は日銀に対して量的緩和、つまり紙幣を刷り散らかす事による物価上昇率「二パーセント」の達成を強く迫っています。そうしたインフレ誘導策については賛否両論があり、その方向性が正しいのかどうかは結果を見てみなければ誰にも分からないでしょうから私も評価は控えますが、私が注目しているのは、安倍首相が日銀に対して「何兆円の量的緩和を」ではなく、物価上昇率「二パーセント」そのものの達成を要求している事です。

いわゆる量的緩和をしてお金を市中にばら撒いても適切な使い道がなければ意味がありません。日銀が量的緩和を実施したらその受け皿となる素晴らしい政策を政府が実行することで初めて国民生活に有益な結果を生むのです。良識ある政治家であれば「日銀に何兆円の量的緩和を実施してもらえばあとは政府が責任を持って物価上昇率二パーセントを達成する」と国民に約束するでしょう。

安倍首相の場合そうではありません。物価上昇率「二パーセント」の達成そのものの責任を日銀に押しつけています。もちろん日銀は日銀できちんと仕事をするべきですが、では安倍首相は何をするのか? 何もしないのです。ただ椅子にふんぞり返って何も好転しない場合は責任を日銀になすりつける以外に何か具体的なプランを安倍首相が描いているような兆候は、今のところ見受けられません。
 


安倍首相の外交センスも気になるところです。領土を守ることへの並々ならぬ決意をアピールする事で国民の支持を得ていた安倍首相は、早速、政府主催の「式典」をやるという国民との約束をすっぽかしました。その判断の是非はともかく、安倍首相がそもそも出来もしない事をやると吹聴してまわっていた事実に私は注目しています。沖縄県民の前で調子に乗ってとんでもない約束を口走った事が最終的に自分の首を絞めてしまった民主党の愚かな元党首と何が違うのでしょうか。

最も懸念されるのは日米関係です。一月中の訪米を希望していた安倍首相でしたが、ワシントンに断られました。表向きはオバマ大統領の日程調整が困難なためという事になっていますが、安倍首相が米中関係を重視するオバマ政権にとって好ましくない言動を繰り返しているからだ、とか、アメリカに「押しつけられた」憲法を変えてやる、と息まいているからだ、とか様々な憶測も飛び交っているようです。

それらは現段階においては全て「憶測」に過ぎないのですが、少なくとも同じく現段階において、オバマ政権が安部政権とどのように向き合おうとしているのか、は見えません。もしオバマ政権に距離を置かれてしまったら、安倍首相は領土問題に関する強気の姿勢も早晩転換せざるをえなくなるでしょう。大して政策通とは言えず、むしろ経済音痴とすら思われる安倍首相が、唯一の見せ場である領土問題ですらその主張を曲げてしまったら、一体何に彼の存在価値を見出せばよいのでしょうか。
 


私が安倍首相の資質に疑問を感じている理由はもうひとつあります。安倍首相は、五年前に突然政権を投げ出すその一年ほど前、「郵政民営化」法案に造反して党を追い出された無所属議員十一名を復党させました。安倍首相は、前任の小泉政権が国民の支持を得た事によって自民党が衆議院で獲得した安定多数の議席を禅譲されたのですが、造反組を復党させた事によって、図らずも自民党に投票した有権者の「改革への思い」を平気で踏みにじる感性の持ち主である事を自ら証明しました。その頃から安倍内閣への支持率は下降し始め、いよいよ次の参院選挙で大敗を喫して安倍首相は辞任に追い込まれます。

同じような軌跡を辿った人物がつい最近も一人いました。政権交代時に獲得した安定多数の議席を前任者から引き継いでおきながら、何を思ったのか唐突に消費税の話を持ち出して参院選で自滅した菅直人元首相です。与えられた議席数にあぐらをかいて、丁寧な議論もなしに、突然公約にもなかった消費税の話など持ち出せば国民の怒りを買うのは当然だと思うのですが、彼もまたその事に気づかなかった一人です。

菅直人元首相に対する世間一般の評価は、それはもうひどいものですが、震災対応時の東電本社への介入や浜岡原発の停止要請など既得権益も慣習も意に介さず切り込んでいくその政治姿勢に関しては、もう少し評価されてもよかったと、少なくとも私は思っています。安倍首相にはそのような姿勢すらありません。菅直人元首相の辞任にいたるまでの往生際の悪さは目に余りましたが、裏を返せば、どんなに批判されても、罵倒されても、ほぼ日本中を敵に回しても首相の座に居座り続けたあの異常なまでの粘り強さは、お腹が痛いという口実ですぐに辞めてしまうリーダーには感じられない、政治家として立派な資質のひとつでもあるのです。
 


安倍首相に話を戻します。安倍首相は典型的な世襲政治家です。つまり、自ら「政治家になった」というよりは、資質や能力に欠けるうえに人並み以上の努力をしなくても「政治家になれる」立場にあった人物です。もちろん世襲の政治家にも優秀な人物はいます。安倍首相はどうでしょうか? 

私は既に安倍首相が一期目の政権をやった時に答えは出たと考えていますが、多くの有権者はそうは考えませんでした。かつて安易に風に乗って民主党に投票した事を反省したはずの多くの有権者は、票を投じる政党を変えただけで、結局また性懲りもなく同じ過ちを犯してしまったのではないか、答えはそう遠くないうちに明らかになるでしょう。


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