banner_top | Home | Military | Trekking | Gourmet | Life | Contact |
logo_3star 湧川鮮魚店
湧川鮮魚店/店頭を飾る色とりどりのお魚(1)

【 Data 】

沖縄県那覇市松尾2-10-1 牧志公設市場1F [MAP]

TEL:098-867-4478

営業時間:9:00〜20:00

定休日:第2、4、5日曜

最終訪問:2013.07

牧志公設市場内に店を構える魚屋だ。牧志公設市場は、一階の食材屋で購入した素材を二階の食堂に持ち込めばちょっとした料金で調理してもらえる事でよく知られているが、私は観光客相手の胡散臭い商売の匂いを感じてずっと敬遠していた。結論から言うと、この市場は破格の値段で入手した素材を、ちょっとだけ場所を移動してワンコインかそこら払えばその場で堪能できるというとても素晴らしい市場である事が判明した!

ビジネスで一足先に沖縄に乗り込んでいた私が、仕事の都合で遅れて東京からやって来た二人と合流してその市場に乗り込んだのは土曜日の午後だったが、幸いな事に私たちの予想に反して市場は比較的空いていた。魚屋だけではなくて生鮮食材全般を扱う数々の業者がひしめく市場の中をあてもなくブラブラしていると、早速、連れの一人がこの魚屋の親父につかまった。

別にそこで慌てて魚を買う必要性を感じてなかった私は、物珍しい色とりどりの魚がいかに美味しいものであるかを熱く語る親父のセールストークにたじたじするだけの連れの一人を見て始めのうちはくすくす笑っていたが、その半ば一方通行な会話はいつまで経ってもまるで埒が明かなかったので、最終的には話に割って入る事にした。魚の良し悪しについて親父と対等に会話をしようと試みる必要などないし、第一そんな事は不可能だ。私が確認するべき事は、要するに親父はその魚たちを一体いくらで私たちに売りたいのか、という事だけだ。

オジサンという三〇センチほどの魚は一尾六〇〇円、現地ではアバサーと呼ばれるらしいハリセンボンがまるまる一尾で八〇〇円。何だ、思ったより全然安いじゃないか。それらは即決買いだ。それから親父がやたらと勧める「伊勢エビ」は二〇〇〇円だという。それを高いと思うか安いと思うかは人それぞれだが、どんな経路をどんな保存状態で流通して来たのかまるで分からない首都圏の呑み屋で出されるそれらの値段を考えれば、目の前にある獲れたての伊勢エビの値段としてはまぁ悪くないだろう。それに出来あいの刺身の盛合わせもつけて、しめて四〇〇〇円。三人の頭数で割れば全く悪くない取引だ。

私たちは支払を済ませ、親父に伴われて二階へと移動し、「がんじゅう堂」という食堂に案内された。座敷のテーブル席がふたつと椅子に座るタイプのテーブル席がいくつかの小ぢんまりしたその食堂では、椅子のテーブル席にいた先客のアベックが、大皿に山のように積まれた唐揚げに、まさに箸をつけようとしているところだったが、私はその様子を見て「そんなに食えると思うかい?」と心の中で失笑しながら空いていた座敷席を占領する事にした。

まず出来あいの刺身の盛り合わせに伊勢エビの刺身が加わった豪華なやつが、質素な器に盛られて運ばれて来た。出来あいの盛り合わせの中には、現地ではイラブチャーと呼ばれるアオブダイの刺身も何切れか盛られていた。調理すると青くなくなってしまうと言うその変ちくりんな魚の刺身は、間違っても私の生活圏ではお目にかかる事のない代物に違いない。その事だけでも私は楽しい気分になった。正直に告白すると、他の刺身は一体何の魚なのか私には皆目見当もつかなかったが、総じてその盛り合わせを構成する新鮮な刺身たちに私は大いに満足した。

次に「オジサン」がバター焼きにされて運ばれて来た。他の魚に混じって店頭に陳列されている分にはそうは思わなかったが、いざ皿に盛られて目の前に突き出されると、まるまる一尾というのはそれを食するにはちょっとデカ過ぎるように思われた。その皿を持って来た中国人アルバイトらしき女の子は「サービスです」と言って、同じ皿に乗っている見覚えのない巨大な魚のアラを指さした。魚屋の親父が、ご丁寧に誰かが親父から買った「イラブチャー」の調理に使わなかった余剰部分を私たちの方につけてよこしたらしい。私たちはその「オジサンとイラブチャーセット」だけで十分満腹になった。

そう言えばアバサー(ハリセンボン)がまだ出て来てないんじゃないか?いやいや、さっきの刺身の中に含まれてたんだろう。それにしては量が少なくなかったか?と議論を始めた私たちが、例のアルバイト中国人をつかまえて私たちのアバサーはどうなったのか、と聞いてみると、それは分からないがアバサーを刺身にして出す事はないはずだ、と言う。

私が感じた不吉な予感は、暫くしてそのアルバイト中国人が、例のアベックが完食にチャレンジしていた山盛りの唐揚げが乗った大皿と全く同じやつを私たちのテーブルにも運んで来たときに現実となった。私たちはすぐにそれを(持ち帰り用の)ドギーバッグに包んで出し直してくれるよう彼女に要求した。一応触れておくと、その日の夕食どきにホテルの部屋で賞味したその「アバサーの唐揚げ」は、冷めてふにゃふにゃになっていたにも関わらず、風味豊かで美味だった。魚屋の親父はこっちにもご丁寧にイラブチャーの頭の骨を忍び込ませてあった。

最後に刺身にしてもらった伊勢エビの殻をダシにした「エビ汁」を堪能してから、私たちは膨れた腹をさすりながら食堂を出て親父に礼を言うために一階へと向かった。親父は相変わらず商売にいそしんでいたが、私たちが親父を探してきょろきょろしているのを見つけると「出口はあっちだ」と身振り手振りで教えてくれた。そうではなくて魚があまりに美味かったので一言礼を言いに来たんだ、と告げると満足そうに「そいつはよかった」と言い、記念撮影を申し出ると快く応じてくれた。頼みもしないのに何やら巨大な巻貝を店の奥から持って来て、そいつを手に満面の笑みを浮かべて写真に写ろうとする親父を見ていて、私はその偶然の出会いを神に感謝した。
湧川鮮魚店/店頭を飾る色とりどりのお魚(2) 湧川鮮魚店/刺身の盛り合わせ(伊勢エビは別売り) 湧川鮮魚店/「オジサン」のバター焼き


−プッシー大尉烈伝−[美食編]に戻る >>> 
Copyright (C)2011 Lt.Pussy All Rights Reserved.