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logo_no_star 玉 笑
玉 笑/天ぷらそば(1)

【 Data 】

東京都渋谷区神宮前5-23-3 [MAP]

TEL:03-5485-0025

営業時間:[火〜金]11:30〜15:30 17:30〜21:30 [土]11:30〜20:00 [日] 11:30〜17:00

定休日:月曜日 ※祝日は営業、翌火曜日休

最終訪問:2013.02

青山に所用ででかける事になった私がインターネットで事前にリサーチした結果、この界隈で最も私が興味を引かれた店だ。つまり一杯「二六二五円」というふざけてるとしか思えない値段で天ぷらそばを提供しているにも関わらず、そこを訪問した人々はこの店を絶賛していた。それだけの金を取っておきながら訪なう人々を虜にする「天ぷらそば」っていったいどんな食いもんだ!?私は未知の冒険に繰り出す思いで表参道の駅から店へと歩き始めた。

何というかこの店はあらゆる主要な駅から中途半端なアクセス位置にある。表参道の駅をスタートした私はそこから一五分ほど住宅街を練り歩かなければならなかったが、どこの駅から出発しても大して変わらなかっただろう。おまけに白壁に何の装飾も、案内すらもない外観はとても蕎麦屋に見えない。「隠れ家」の雰囲気を醸し出してるつもりかもしれないが、私はそういう小細工があまり好きではない。

扉を開けると狭い通路の奥に見えるとても品がよく、かつ重苦しい雰囲気の店内には四組ほどの先客がいた。とにかく咳払いひとつ許されないくらい誰もが静かに蕎麦を楽しんでいて、そこで屁をするなんてとんでもない事だったろう。一人で入店した私は壁に向かうように座るカウンター席を案内された。私が女性の店員に満を持して「天ぷらそば」をオーダーすると、二、三〇分かかりますがかまいませんか?と言う。金もかかるが時間もかかるって言うのか?そいつはどんなに素晴らしい「天ぷらそば」なんだろう!?私は二つ返事でOKだと伝えた。

私が店員に差し出された実に香り豊かな「そば茶」を啜りながら東南アジアの新興国の経済情勢に関するぶ厚い本を大して読み進まないうちに私の「天ぷらそば」はやって来た。店員の予告に反してそれは一五分ほどで完成したようだった。何重にも漆を塗り込めたような高級そうなお椀に私は恐縮しながら、その蓋をパカリと開けた。

うやうやしく敷かれた天紙のうえに美しいが小ぶりな天ぷらがちょこんと乗っている。始めは意味が分からなかったが、その下の椀に「かけそば」が入っているのを見て、私は、私の好きなタイミングで天ぷらをそばに投入しなさい、という店主の意図を理解した。とは言っても「天ぷらそば」というのは予めそばに天ぷらが投入された状態で提供されるものだ。私は何も考えずに紙の上に乗せられた全ての天ぷらを躊躇いなくドボドボとそばの中に放り込んだ。

そいつは全くの失敗だった。いざそばに箸をつけてずるずると啜ろうとした私はその出し汁のあまりの熱さに悲鳴をあげた。沸点とそう変わらない温度のままで私の下に届けられた出し汁が、それを私が口にいれるべき適温に下がるまで待っているうちに全ての天ぷらはふにゃふにゃになった。

それらの普通の蕎麦屋の流儀にことごとく反する変わった「天ぷらそば」の提供の仕方は、それを食する客が美味しく頂くために店主が編み出した戦略的なものなのかどうかは分からなかったが、仮にそうだとすればその戦略はたしかに理に適っていた。蕎麦は驚くほどコシがあり安っぽさを微塵も感じさせなかった。だが最終的にその「天ぷらそば」は、ボリュームのなさも手伝って、二六二五円という価格設定にも私を満足させるだけのパワーを持ち合わせていなかった。

店の内装や或いは食器ひとつとっても場末の蕎麦屋とはあらゆる面で格の違いを感じさせられたのは事実だったが、純粋に料理の質と値段のバランスだけを評価する私のようなタイプの客には高い評価を得られないだろう、というのが私の結論だった。その事は、私と趣味嗜好を異にする人々にとってはこの店がとても素晴らしい店に見えても全く不思議ではない、という事を意味している。でも私が探し求めているものがこの店で私を待ち受けていたわけではなかった。ただそれだけの事だ。
玉 笑/天ぷらそば(2) 玉 笑/天ぷらそば(3) 玉 笑/店舗外観


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