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いけすやまもと
	【 Data 】 熊本県天草市南新町10-11 [MAP] TEL：0969-23-2103 営業時間：11:00〜23:00(LO22:00)　11:00〜22:00(LO21:00)[祝日] 定休日：水曜日 最終訪問：2014.08
東京からはるばる天草まで出かけて鯛を釣って帰るというミッションを胸に秘めて私と同志二人は熊本の地に降り立ったが、チャーターした釣り船の船長から前日になって「しけで船が出せない」と電話があった。もちろん私たちはそんなことで失意に打ちひしがれるようなやわな根性は持ち合わせちゃいない。さっさと気持ちを切りかえて天草諸島ならではの魚介料理に舌鼓を打つべく、私たちは夕食どきになると、私がインターネットで見つけたこの店へと向かった。 ところで天草をただの島だと思ってはいけない。そこは、その全体の面積を足すと沖縄本島と変わらないくらい広大な「島」だ。同じ島にあるのにまさかホテルから車で一時間もかかるとはまったく想定していなかった私は、今にも餓死しそうなほど腹ペコだっていうのに同志たちのために一時間もレンタカーを運転する羽目になった。 観光バスかタクシーの運転手らしきあまり教養のなさそうな年を食った男たちのたまり場と化している駐車場に車をとめて店内に入ると、カウンター席にぐるりと囲まれた巨大ないけすが私たちを出迎えた。夕食どきだというのに客はまばらで、私たちは個室になっている畳敷きの座敷席に案内された。 注文とりにやって来たやや高齢のご婦人に、私は「超」ぜいたく丼という名のついた、この店が提供するなかで最上級の海鮮丼を注文した。つまりこの店が提供しているスタンダードな海鮮丼にウニとアワビが別皿で提供されるのが「ぜいたく海鮮丼」で、そのうえさらに「天空まぐろ」までトッピングされているというラグジュアリーな一品こそが「超」ぜいたく丼だ。「天空まぐろ」というのは天草近海で育てられる養殖マグロらしい。オーケー、能書きはどうだっていいんだ。そいつはどれだけ美味いんだ？ ほどなくして私のもとへと運ばれて来た「超」ぜいたく丼は、たしかに新鮮な数々の魚介類に彩られた素晴らしい一品だったが、二五〇〇円という値段を考えると、お世辞にも私を満足させるものとは言いがたかった。まず指摘しておかなければならないのは、丼メシに乗せられた刺身が「ぜいたく」というその名にちっともふさわしくなく（ましてや「超」だって！？）ペラペラであることだ。新鮮であることは間違いないので「新鮮丼」という名前であれば私も納得しただろう。この刺身をカットしたやつはもう一度自分の提供する料理の名前をひとつひとつ正確に覚えなおすべきなんじゃないか？ ウニとアワビも悪くはないのだが、こちらもそのボリュームと来たらやや迫力不足だ。札幌の場外市場の方が多少値は張るが、あっちは惜しみなく具を乗せた丼を出してくる。「天空まぐろ」とやらは、従来困難とされていたマグロの養殖方法を確立したという意味では素晴らしい業績だと思うが、こと味覚となると、それはまた全く別の問題だった。 説明書きによれば「天空まぐろ」とはマグロのなかでも最高級とされるクロマグロを「完全養殖」したものらしい。なるほど、養殖とはいえクロマグロなら大いに期待に胸が膨らむところだ。だが例えば仮に何らかの理由で私の「超」ぜいたく丼の製作に携わったスタッフが、私の丼に盛られるべきその「クロマグロ」をこっそり安物のマグロにすり替えていたとしたらどうだろうか。私には、そうであるに違いない、と証明することはできないが、その一方で、そんなことはありえない、と言い切る根拠もあいにく持ち合わせていない。 結局のところ、この店の提供する数ある海鮮丼の中でもトップに君臨する「超」ぜいたく丼は美味いか不味いかと聞かれれば、それは間違いなく美味いのだが、最終的に値段という要素を加味して評価を下すなら「平凡だ」というのが私の導き出した回答だった。観光客の訪問には事欠かない地政学的条件下でそれなりに大型の店舗を構えていれば、その品質でも十分に商売は成り立つだろう。だから必ずしも私が大いに満足感を覚えなかったからと言って私がこの店を悪く言うのは筋違いだ。むしろこの店の利点は私たちのようなよそ者でも気軽に入店できるそのハードルの低さにあることを私は認識して、すがすがしい気分で店を後にした。
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