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logo_2star 鮨一力
鮨一力/特上握り

【 Data 】

岩手県盛岡市長田町11-4 [MAP]

TEL:019-624-5447

営業時間:11:30〜14:00 17:00〜21:00 ※ 日曜はランチのみ

定休日:月曜日

最終訪問:2013.08

盛岡駅からほどよく離れた閑静な住宅街にある歴史を感じさせる佇まいの寿司屋だ。インターネットで事前に情報を収集した限りでも、盛岡では筆頭格の由緒正しき寿司屋のようだ。その日の少々面倒なビジネスを終わらせた私は大急ぎでこの店に駆け付けた。閉店まで一時間足らずの八時過ぎにガラガラと引き戸を開けたにも関わらず、大将は嫌な顔ひとつせず私をカウンター席に招き入れた。

遅い時間という事もあってか、店内に客はまばらだった。私はそれが何貫のセットなのかを大将に確認したうえで、三一五〇円の「特上」を注文したが、握りの数はランクによって変わる事はないようだった。

私の少々大きめの荷物を見たからか、大将は私が地元の人間ではないとひと目で見抜いたようで、どこから来たか?と尋ねた。それをきっかけに様々な方面に関する私と大将の会話の応酬が始まった。岩手の県民性について、盛岡市内にはなぜ美女が多いのか、ご当地選出の例の大物政治家に関する裏話、などなど...。

結論から言うと、私はほとんど大将と喋りっ放しだったので、その「特上」寿司の一貫一貫がどうだったかをあまり詳しく覚えていない。印象としては上品かつコンパクトによくまとめられた握り寿司といった感じだった。私は寿司に対してそれほど造詣があるわけではないが、プロの職人が握る寿司とは本来そういうものなのだろう。だが私は、漁業の栄える地域でたまに見かけるような、飛びきり新鮮なネタが大胆にカットされてシャリに無造作にベチャッと乗せられているような、少々見た目が拙くていかにも下手くそな握りでも、それが美味ければOKだと考えるタイプだ。

むしろ私がひどく感心したのは、握りの前に出て来た付き出しや最後に大将の厚意で出してもらった小鉢料理の出来栄えだった。それらの、どんなに鮮度の良いネタを使っていようが「回転寿司屋」では間違っても提供される事のない職人芸を思わせる趣きの品々は、これが和食なるものの真髄かと思わせるほどにさり気ない気品に満ちた味覚を私に楽しませ、私はそのプロフェッショナルな完成度に舌を巻いた。

最終的に私がその日の夕食に支払った総額はビール二杯をつけて、五,〇四〇円だった。一流の寿司屋に支払う額として、それはかなり安めの金額だったろうが、昼時に訪問していればもっと安い価格でその上質な寿司を味わう事が出来るらしい。

ところで大将は私との会話の流れで、自分は「料理人」なのではなく「職人」なのだ、と言っていた。鈍い私には最終的にそれがどういう事なのかよく分からなかったのだが、大将なりの拘りというか、深い意味があっての言葉だったのだろう。そんな偉大なる「職人」たる大将が、私と会話をしている間も、私が握りを箸でつまんで醤油につける度に鋭い眼光でそれをチラリと見据えるので、私は、何かまずいつけ方でもしちまったんじゃないか、そのうち大将に怒られるんじゃないか、と気が気でなかった。


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