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味千拉麺 本店/味千ラーメン・大盛(1)

【 Data 】

熊本県熊本市中央区水前寺6-20-24 [MAP]

TEL:096-384-4433

営業時間:11:00〜24:00(L.O.23:30)

定休日:無 休(元日のみ休業)

最終訪問:2014.08

私が全国を歩き回り入店した数知れないラーメン屋の中で、最も素晴らしいラーメンを提供していると私をして唸らしめる、まさに幾多のラーメン店の頂点に君臨すると私が信じてやまない、熊本を発祥の地とする偉大なる「味千拉麺」の本店だ。「味千拉麺」はフランチャイズ式の経営形態により、その店舗数は海外を含め実に七〇〇店舗にも及ぶものの、そうした店にありがちな安っぽさや品質の劣化など、私の知る限り微塵も認められない。

私は(それが本店であれ支店であれ)そこに入店するたびにベーシックな「味千ラーメン」をオーダーする。実にコクのある豚骨スープをベースとするシンプルな一品だ。メニュー表にはチャーシューやパイクーを始め、様々な具をトッピングして単価を釣り上げた品々が所狭しと並んでいるが、私はそれらの品々には目もくれない。その事は「味千ラーメン」がただ単にスープと麺の組み合わせのみで私の味覚を満足させる数少ない秀逸なラーメンである事を意味する。

もう一〇年以上も前に高田馬場の支店でその素晴らしいラーメンに巡り合った私は、池袋にも支店があるのを嗅ぎ付けてはわざわざ出かけて行ったし、その後、高田馬場の支店が新宿に移転した、と聞いては、新宿に所用がある度にそこに通った。そして突然それらの支店が撤退してしまう度に、私はまさにあの素晴らしいラーメンを口にするためにそこを訪れながらその事実を現地で初めて知り茫然とするほかなかった。

私はいつか熊本にある「本店」を訪問する事を固く心に誓ったが、ビジネスやその他の用事で熊本へと出かける度にその機会を窺ってはみるものの、まったく不幸なことに熊本駅からもメインのオフィス街からも程よく離れたエリアで営業している「本店」に向かう好機に恵まれる事はなかった。私がようやくその機会に恵まれたのは、ある年の夏休みに観光のために熊本を訪れたときの事だった。

土曜日の昼時を少し外して訪問してみると、店の前には入店を待つ数組の客の姿があった。レンタカーでそこに向かった私は駐車場も既に満車である事を見てとり少々うんざりしたが、それ以上に深刻だったのはその駐車場の窮屈さだった。県道沿いに建てられた本店の駐車場は店の裏側にあって、車でその素晴らしいラーメンを堪能するためにそこを訪れた客は県道から一本狭い路地に入ってから駐車場へと車を滑りこませなければならない。既に先客の車で埋まった窮屈な駐車場に狭い路地から車を入れる事の難しさは、その日、私の目の前で何度も切り返した挙句に路地向かいの民家の壁に頭から突っ込んで行ったマークXの親父が身を以って証明してくれた。私はその後、一台の車が出て行って空いたスペースに、その親父が暗黙のうちに発してくれた忠告に感謝をしつつ、細心の注意を払って自分の車を滑り込ませ、店先へと向かった。

一〇分と待たずに店内に招き入れられた私は、注文を取りに来たアルバイトらしき訛りのひどい少年に、いつものようにシンプルな「味千ラーメン」の大盛をオーダーした。程なくして私の下に運ばれて来た大盛り用の丼が私の眼前に据え置かれたときに私の感じた懐かしさ、幸福感を言葉で表現する事はおよそ不可能だ。十二分に塩気の効いたちっともヘルシーさを感じさせない濃厚スープ、添えられたキクラゲと同様にしっかりとした歯ごたえを感じさせる中太麺、程よいホロホロ加減のチャーシュー、固めに茹で上げられた黄身がスープと交わる食感が絶妙な煮玉子、何もかもが、私が再び出会える日を長い間心待ちにしていたあの頃の姿そのままの逸品だ。

鹿児島や北海道にも私を唸らせるラーメン屋が何件かはある。それでも私がもし地球最後の日に一杯だけラーメンを食わしてやる、と神にお赦しを頂いたなら、私は迷わずこの「味千ラーメン」をチョイスするだろう。ラーメンばかりではない。地球最後の日に何でも好きなものをひとつだけ食わしてやる、と言われても、やっぱり私が選ぶのは「味千ラーメン」だ。私は大盛りをペロリと平らげるとレジに向かい、いま自分が平らげた分とは別に「お土産用」の味千ラーメンを1ダース分買い求めた。レジのおばさんは買う量を間違えてないかと二度も私に確認した。
味千拉麺 本店/味千ラーメン・大盛(2) 味千拉麺 本店/店舗外観 味千拉麺 本店/「本店」である事を誇示する看板


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